フランスの歴史上、最も神話的な王妃マリー・アントワネット。開催中の「マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実」(〜’17年2月26日まで。東京・六本木ヒルズ 森アーツセンターギャラリー)では、肖像画をはじめとする絵画、彼女が愛用していた食器や漆器、家具、革命期の資料など約200点にもおよぶ貴重な品々が展示されており、そこから彼女の波乱に満ちた生きざまをたどることができる。
展覧会の監修者であり、ヴェルサイユ宮殿主任学芸員のベルトラン・ロンドー氏はこう語る。
「最大の権力の座にありながら、もっとも不名誉な最期を遂げたマリー・アントワネットの生涯は、今も世界を魅了してやみません。ヴェルサイユ宮殿は、そんな彼女が輝かしい時代を過ごした、いわば“思い出の宝石箱”です。これらの、まさに『聖遺物』と呼ばれる品々は、王妃が過ごした日々を私たちに想起させてくれるのです」
宮殿に遺された足跡からは、ルックスにコンプレックスを抱え、禁断の恋にのめり込み、また自らの欲求をかなえるために周囲を巻き込んだりと、なんだかマリー・アントワネットの現代で言う“こじらせ女子”な一面も浮かんでくる。そんな、マリー・アントワネットの意外な素顔を、ヴェルサイユ宮殿学芸員のグウェノラ・フィルマン氏が紹介してくれた。
■額も鼻も嫌いなコンプレックスの塊!
「女流画家のヴィジェ・ル・ブランは、王妃の欠点を隠しつつ、似た肖像画を描けたため、お抱え画家になれました。広すぎる額、わし鼻のように曲がった鼻、突き出た顎……王妃のコンプレックスを巧みな角度から描くことで目立たないようにしています。ほぼ同い年で子を持つ母という共通点も、2人の距離を縮めたのでしょう」
■ピンチでも弱みは見せない!
「ポーランド人画家のクシャルスキが描いた王妃の晩年の肖像画が『タンプル塔のマリー・アントワネット』。夫のルイ16世が処刑された後の失墜した王女の肖像は、逆境の中でも勇気と威厳に満ちており、悲劇の伝説の起源のひとつになりました。処刑台へと進む際も、人々に浴びせられた冒涜の言葉に動じることなく、毅然とした振舞いだったことがうかがえます」
また、スウェーデンの将校フェルセン伯爵と禁断の恋に落ちた王妃。2人は革命勃発後も暗号を使って手紙を交わしていたとされ、長年、解読がなされてきた。今年には、1通の手紙の黒く塗りつぶされた部分が明らかに。浮かび上がったのは、《あなたを狂おしいほど愛しています。一瞬たりともあなたを敬愛することをやめられません》という文字だった。