“読むだけで元気になる!”“一歩進んでみたくなる!!”と女子に大人気の新世代の「闘う女マンガ」。闘う女マンガといっても、少し前の少女マンガの一大テーマだったスポ根モノや、男たちとのバトルモノではありません。アラフォーの新進作家たちが描くのは、今を生きる女性たちが直面する現実と闘う姿です。そんな、新世代の「闘う女マンガ」の魅力を、マンガライターの門倉紫麻さんと作家でマンガマニアの松田青子さんが語ってくれました。
松田「昔の『闘う女マンガ』はスポーツや戦闘モノなどの“ザ・闘い”な作品が多かった。今はそれより、社会との闘いを描く作品が増えました」
門倉「マンガはたとえテーマが何であっても、読者のいるエンタメというのが大原則なので、自然とその時代を反映します。今は女性が社会と闘わざるを得ない時代なので、そうなるのは自然でしょうね。意識的に闘いに挑んでいる作家も多いですが、ナチュラルに描いた結果が闘いになっている作家もいると思います」
松田「最近はそういう作品が目立ちますよね。一番にオススメしたい『プリンセスメゾン』はまさにそう!」
門倉「作者の池辺葵さん自身は意識していないと思いますが、闘いにいかないことで社会に勝つ方法を示している」
松田「今回、門倉さんに教えていただいて初めて読んだのですが、なんてすごいマンガなんだと心が震えました。いたるところで『うわーん』と声に出して泣いてしまいました」
『プリンセスメゾン』(池辺葵・小学館)は、東京で家を買いたい26歳独身女性の主人公・沼越さんの物件探しを中心に、都会で生きる女たちの姿を描く。BSプレミアムにて同名ドラマも放送中。
門倉「女性が1人でマンションの部屋を買う話ですから。少し前ならエンタメにはなりえない。今でも『本当にいいの?結婚できなくなっちゃうよ』と言われたりしますよね。主人公の沼越さんも、結婚について聞かれます。その答えが『まずは自分の人生をちゃんと自分で面倒みて、誰かと生きるのはそのあとです』。まさしくそうで、結婚と家を買うことは結びつくものではないはず。孤独=不幸ではないし、それぞれの幸せの形があるということを、池辺さんは描いているのだと思う」
松田「沼越さんだけじゃなく、いろいろな女性のエピソードが描かれているのもいい!広告代理店の女性社員が性差別的な広告に対し、『もっと敬意を込めたコピーはないの?』と言うような場面が、当たり前のようにさらっと出てくる。マンションに1人で暮らす独身の大御所女性マンガ家が、ほかの部屋から漏れ聞こえる家族団らんの声を聞きながら、ベランダで幸せそうにコーヒーを飲むシーンが本当に素晴らしかった」
門倉「今までのマンガだったら、ここで寂しさを感じる描写になったはず。そうではなく、よその家族の声を聞いて幸せな気持ちになる、というのがすごくいい」
松田「そうですね。価値観の対立ではなく、1人で生きる幸せも、家族と生きる幸せも肯定している。登場人物たちが誰の人生も否定しないことの温かさ。女性たちを大きく包み込んでくれる作品です」
門倉「女が家を買って幸せになることが、結果として社会に対する闘いになっています」
松田「新世代の『闘う女マンガ』の多くは、価値観や生き方はそれぞれ異なるということを、描くことで肯定してくれていますね。描いてくれたことを、作者に皆さんに感謝したいです」
門倉「作家は描くことによって、そこにいる人を救っているんだと思います。マンガでなら、誰もが楽しみながら読める。ふつうにここにいる私たちを、作家はペンで闘いながら救ってくれているんです」