現在、女性の伝統工芸士は全国に614人。女性蔑視が当たり前だった職人の世界で戦う彼女たちは、女性目線の新たな感性で優れた作品を生み出し続ける。そんな男社会だった“伝統”に風穴を開ける、京都で活躍する女性伝統工芸士を紹介。きらめく用の美はまさに匠の業だ。
【西陣織】小玉紫泉
「誰にもお譲りしたくないな、と思うほど、すべての作品、丹精込めて織っています」
日本の伝統織物の最高峰とされる西陣織。小玉さんはそのなかでも、ひときわ高度な技術を要する「爪掻本つづれ織り」の伝統工芸士だ。
必要な部分だけさまざまな色の緯糸を織り込み模様を描く。その際、ギザギザに削った手の爪で、丹念に緯糸をかき寄せることから「爪掻き」の名がついた。小玉さんがこの技巧と出合ったのは、意外に遅く28歳。しかも最初は主婦のパートとしてだった。
「そのパート先も、わずか1年半で家の事情で退職しまして。無謀にも独立するんですが、そこからほぼ独学で、つづれ織りの技法でできることをひたすら追求していったんです」
結果、生まれたのが緯糸を三つ編みして、さらに織り込んだ実用新案登録した帯や、あえて緯糸を織り込まずに背後の絵柄が透けて見える帯など。長い歴史を誇る西陣でも、これまで誰ひとり織ったことがない斬新な作品たちだった。
批判の声もあった。業界を長年取り仕切る男性たちは、女性の小玉さんが生み出す型破りな作品が鼻持ちならない。「アイデアだけ」「緯糸を織らないのは手抜き」と、難癖をつけられたのも1度や2度ではない。それでも、彼女のユニークな作品は賞を総なめにし、新聞に幾度も取り上げられ、ファンは全国に増え続けた。「西陣の異端児」を自認する小玉さんは、伝統と格式の世界に、新風を吹き込み続ける。
「つづれ織りの無限の可能性を多くの人に知っていただきたい。そう考えながら、私は機を織り続けています」
【小玉紫泉/こだましせん】
’52年、大阪生まれ。’80年、京都移住後、つづれ織り会社に勤務。’82年、独立。革新的技法で多くのコンテストでグランプリを獲得。’96年に伝統工芸士に認定。’10年にはパリで着物ショーを開催。
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