「主婦に話を伺うと、いまだに『グラっときたらまず消火』という方が多い(苦笑)。現在では、都市ガスでも電気調理器でも、強い揺れを感知すると自動的に止まります。消火のために近づいたり、近くのテーブルの下にもぐったのでは、煮えている鍋が落ちてきてとても危険です」

 

そう語るのは都市防災マネジメントの専門家で、東京大学教授の目黒公郎先生だ。学校の防災訓練も同様だという。“サイレンが鳴ったら、まずは自分の机の下に入りなさい”と教育された子供たちは、校庭で遊んでいるときにサイレンを聞くと、教室に戻ろうとするそうだ。

 

「防災訓練といっても、災害時に役に立たなければ意味がない。今までの『Aやれ、Bやれ、Cするな』的な防災訓練は、思考停止させていたのです。季節や天候、時間や場所、自分の服装や持ち物、役割などを踏まえたうえで、発災からの時間経過の中で何が起こるのかを具体的に想像できる思考力と、他人事(ひとごと)ではなく自分事(わがこと)として考える意識改革が重要です」

 

地震の備えとは、備蓄のことだけではない。いつ大地震が発生しても生き延びることができるように備えておくこと。いちばん大切なのは災害に対する想像力『災害イマジネーション』だという。

 

「防災対策というと『飲み水や乾パンを用意すればいいですか?』と聞かれることが多いのですが、大切なところはそこではありません。もちろん備蓄も大切ですが、それは『生き残った後の心配』であって『生き残るための準備』ではないのです」

 

大地震が起これば、状況によって人は『守る側』『守られる側』のどちらにもなる。防災関係者の多くは、自分は『守る側』と感じているそうだ。

 

「しかし、労働時間で考えてみると、防災業務に関わっている時間は全体の2割以下、8割の時間はほかの市民と同じなのです。しかも、地震の揺れの中でもしメガネが壊れてしまったら?ふだんと同じように動くことはできなくなる可能性が高い。その逆も同様です。若いお母さんなどは『守られる側』の意識が強いのですが、幼い子と2人で自宅にいるときに地震がきたら、自分は『守る側』として行動しなくてはいけません」

 

『災害イマジネーション』を強化し、豊かに使って、さまざまな状況を想定しておくこと。それこそがいちばん大切な防災訓練といえるようだ。

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