いま、米国と中国が、貿易関税を巡る“制裁”&“報復”合戦で火花を散らしている。そもそもの発端は、3月1日、米国が鉄鋼、アルミニウムに高関税をかけると発表したことに始まるーー。
3月23日、実際に米国が関税を引き上げると、すぐに中国が“報復措置”を発表。4月2日に、フルーツ類や豚肉などの128品目、30億ドル(約3,200億円)相当の米国からの輸入品の関税が引き上げられた。
翌3日、今度は米国が中国の知的財産権侵害に対する“制裁措置”として、500億ドル(約5兆3,000億円)相当の中国製品(情報・通信機器、ハイテク製品など)、1,333品目に25%の追加関税をかけると発表した。すぐさま中国も、同額の追加関税を米国製品に課すと対抗を宣言。
これに激怒したトランプ大統領は、中国製品に対して、さらに1,000億ドル(約10兆7,000億円)規模の追加関税を検討すると発表した。米国がすべて実施すれば、計1500億ドル。中国からの総輸入額(約5,000億ドル)の3割強となる。
トランプ大統領と習近平国家主席という2人の“独裁者”の意地の張り合いで、いつ米中貿易戦争が勃発してもおかしくない状況になった。
「私の試算では、仮に米国と中国2国間すべての貿易に関税10%が上乗せされた場合、日本のGDPは1.4%押し下げられます。これが米中貿易戦争で考えられる最悪のシナリオです」
米中が“開戦”すれば、日本の家計を直撃すると警鐘を鳴らすのは、第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さん。
すでにマーケットにも影響が出ている。中国への輸出減を見越して、米国内の大豆や豚肉などの価格はジワジワと下がってきている。今後、米中貿易戦争が本格化した場合、私たちの生活にどのような影響を与えるのか。
「まず、国内の食品価格が下がります。米国産の大豆が下がれば、調味料を含む大豆製品全体の値段が下がります。また、大豆は家畜の餌なので、肉類や、乳製品の価格も下がります。そして大豆の代替品である小麦、とうもろこしなどの穀物全体も下落、それを材料とするパンやお菓子類の価格も下がるでしょう。一見、家計にはいいことにも思えますが、じつはそれ以上に給与が下がり、収入が減ってしまいます」(永濱さん)
永濱さんによると、世界経済が悪くなるという観測によって、円高株安が進むという。そうなればグローバル企業は軒並み影響を受けるのだ。
3月に内閣府が発表した『企業行動に関するアンケート調査』によると、輸出をおこなう企業が採算の取れる為替レートは1ドル=100.6円(実数値平均)。円高が進み100円を割った場合、利益が出ない計算となる。
そうなれば会社の株価も下がり、従業員の給与カット、リストラも含めた人件費の削減が起きる可能性も出てくる。
さらに貿易戦争が激化した場合、「日本にも流れ弾が飛んでくる」と予想するのは、家計の見直し相談センター相談員で、ファイナンシャルプランナーの藤川太さん。
「流れ弾とは、米国が要求してくる市場開放です。中国に輸出できなくなった牛肉や豚肉、農産物などの食料品を、“関税なしで大量に輸入しろ”と、これまで以上の市場開放を迫ってくる可能性も。そうなれば、食の安全性がどこまで保たれるか。そういう問題も出てくるかもしれません」
過去に起きたBSE感染牛や遺伝子組み換え作物の問題の再燃が懸念される。また、国内の畜産、農業といった生産業者も大きなダメージを受ける。
日本は中国と同様に、対米貿易の黒字国。米中貿易戦争は決して対岸の火事ではなく、“次は日本だよ”という、米国からのサインでもあるのだ。