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原発事故の処理費用は誰かが負担せねばなりませんが、「誰が、どのように、どれくらいの割合で負担するか」は、もっと議論されるべきです。

 

そもそも、真っ先に責任を負うべき加害者の国や東電が、被害の全容も見えていないのに、机上の空論で試算をし、誰に負担させるかばかりを拙速に決めてしまうこと自体、大きなまちがいです。

 

自動車の事故でも、ケガをさせた相手に支払う賠償金額を運転手が勝手に決めるなんてありえません。被害当事者である福島の方々は、そのことに強い憤りを感じています。

 

原発事故が起き、ひとたび放射能に汚染されると、元に戻るまでに何十年、何百年とかかります。実際、原発事故前の福島県内の放射線量は、毎時0.04マイクロシーベルト程度でしたが、現在は、政府の避難指示が出ていない地域でも、少なくとも原発事故前の3~15倍の数値はあります。

 

にもかかわらず、政府が避難指示を出した地域の人々には、月々10万円の精神的慰謝料が支払われますが、政府が避難指示を出さなかった“区域外避難者”の方や、あるいは避難したくてもできずにとどまった方々には、事故直後に、ひとり数万円の慰謝料が支払われただけです。

 

今年の春には、政府が避難指示を出した地域もどんどん解除され、避難者の住宅支援は今春で打ち切られてしまいます。

 

福島の方々は、原発事故によってふるさとを失い、生業を奪われました。彼らはただ原発事故前の生活が取り戻したいだけです。

 

放射能汚染されてしまうと、元に戻すのに途方もない年月がかかるならば、同じ過ちを繰り返さないことでしか、福島の事故はつぐなえません。

原発は、平時でも作業員は被ばくのリスクにさらされます。事故が起きれば、命を落とすこともある。電気をつくるために、そんな大きな代償を払っていいのでしょうか。大人の責任として、一人ひとりが考えてほしいと思います。

 

(福島生業訴訟弁護団・弁護士 馬奈木厳太郎氏 ○「生業訴訟」は、福島県や近隣地域の住民約4,200人が、汚染されたふるさとの原状回復とふるさと喪失の慰謝料を求めて起こしている集団訴訟)

 

取材・文/和田秀子

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