【東京】沖縄返還の日米交渉に携わった千葉一夫外交官を描いたNHKのスペシャルドラマ「返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す」の劇場版が7日から、那覇市の桜坂劇場で公開される。千葉外交官の妻恵子役の戸田菜穂が沖縄公開を前に本紙取材に応じた。戸田は「普天間飛行場のそばで撮影して、ごう音を何度も何度も体験した。実際に行ってみないと分からない」と話し、「若い人たちには戦争を題材にした作品を見てもらい、悲惨さを伝えていくしかない」と思いを述べた。
(聞き手 滝本匠)
―出演の話を受けて。
戸田 千葉さんのことは知らず、教科書で習った沖縄返還の裏でこんなに尽力された人がいたのかと感動があった。絶対に諦めないという強い思いでおられ、千葉さんが動かなかったら、また状況は違っていたのかもしれない。
―千葉さんを支える妻恵子さんの役どころは。
戸田 本当に聡明(そうめい)な方で、米国に一緒に行った時も自宅でホームパーティーを用意して、本当に千葉さんと二人三脚で、ただの奥さんというより、返還交渉にも大きく関わったのではないかと思うほど。千葉さんの一番の味方で、家庭は千葉さんがほっとできる唯一の場所。恵子さんはいろいろな役割を果たした奥さんだった。学生時代からの恋人で、言いたいことが言える、本当に仲良しという雰囲気が出せたらいいなと思って演じた。私の理想のような奥さん。
―タイトルには「いつか、沖縄を取り戻す」とあるが、基地の存在も含め本当は現在も取り戻せていないのではという思いを感じた。
戸田 実際に普天間飛行場のそばで撮影して、ひっきりなしに米軍機が飛んできて、耳鳴りがして頭痛がするようなごう音を何度も何度も体験した。民家もあって、どんな思いで暮らされているのかとも思った。ニュースで見ているだけでは、実際に行ってみないと全然分からない。いろいろ不便や危険な思いをされていると改めて思った。
―沖縄のイメージは。
戸田 小学校のころに家族で万座ビーチなどに旅行に来た。毎年のように宮古島にも行っている。
―一方で基地と隣り合わせに暮らしている。
戸田 私自身、広島出身で、戦争の映画も見ている。リゾートのイメージだけではない。父方の祖父が原爆の日に救護の現場にいて、焼けただれた人たちが運ばれてくるのを目の当たりにしていた。私たちには何もしゃべらなかったが、手記を寄せていてあとでそれを知って、父も驚いていた。
戦争を題材にした作品は特に身が引き締まる。皆さんの心に届くよう一生懸命演じるしかない。どんどん語り部さんも亡くなっていく中で、若い人たちにはそういう作品を見てもらって戦争の悲惨さを伝えていくしかない。
―千葉さんの沖縄へのこだわりも沖縄戦の体験がきっかけだった。
戸田 今も終わっていない。苦しんでいる人がいる。