お菓子会社ナンポー社長の安里睦子さん、沖縄を代表する服飾ブランド「YOKANG」デザイナーの山内カンナさん、情報通信産業で成長著しいいえらぶ琉球代表取締役の新井つかささんを招き、働き方や女性が社会で輝くために何が必要なのか、語り合ってもらいました。
(進行:琉球新報社・新垣順基営業局長)
現在のお仕事の内容は?
安里 うちは紅イモを中心とした県産素材を活用したお菓子作りをしている会社です。これまでは沖縄っぽいパッケージが多かったけど、意外と沖縄らしさが邪魔になることも多いように感じていて。県民が手土産に持っていきたいと思ってくれるようなお菓子作りにチャレンジしています。県外のお菓子会社の進出も相当増えているので、ビジュアルを重視する方に「パケ買い」してもらえるようなお菓子を作りたいと思っています。
山内 母が染織のブランドを立ち上げ今年49年、私のブランドYOKANGは19年になります。「誇れる服」をテーマに染めの可能性を日々追求しています。沖縄だからこそ生まれる色やテキスタイルを県内のアーティストとコラボしながら模索していけるのが私たちのブランド。当初は県内外へ卸を中心に展開していましたが、少し方向性が違うことに気づき、6年前から生産から販売まで自社で展開しています。一昨年は久茂地のデパートリウボウに2号店をオープンしました。
新井 弊社は東京にある「いえらぶGROUP」のグループ会社で、不動産会社向けの業務支援サービスを提供しています。主にクラウドサービスに付随したホームページ制作やウェブコンサルティング事業を行っています。情報通信産業ということで若いメンバーが多いです。沖縄に来て思ったのは、沖縄の人は家族や友人に対して熱い思いを持つ人が多い反面、仕事に後ろ向きな人が多いこと。でも仕事ってもっと面白いはずなので、「沖縄で一番有名な会社を作りたい」というビジョンを掲げ、仕事でワクワクできる人を増やしたいと思っています。
社内で力を入れている事は?
安里 「沖縄一かっこいいお菓子会社」を目指して、すべてのパッケージを刷新しています。イオン北谷店内に昨年オープンした直営店の名前は「スイートデビル」。甘いもので人々を魅了したいという思いを込めました。沖縄にはたくさんお菓子会社がある。すでにある方向ではいつまでも後ろに並ぶことになる。だから正統派から小悪魔派に方向転換しました。父から受け継いだ優しさを忘れず、前向きに戦う姿勢は悪魔的に。したたかで魅力ある女性のようなお菓子を目指しています。
例えば直営店ではちんすこうは「ICHICORO(イチコロ)」という名前でかわいい瓶に入れて売っています。瓶は重たいし危ないから売れないってまわりには言われたけど、すごく売れています。女性はゴミになるプラスチックより瓶が好きですよね。そういう感覚でお菓子を作りたい。既存のものをかっこよくすることで新しいものに変わります。このコンセプトの下、もっとやんちゃに挑戦していきたいです。
山内 洋服も毎回チャレンジです。デパートリウボウに2号店を出店することが決まった時、若い世代が気軽に購入できる商品の開発をしなくてはならないと思いました。染めの面白さや良さをもっと知ってもらいたいという気持ちが強かったですね。高くて良いものだけを追求すると紅型自体がなくなるかもしれない。幸い手染めかプリントかわからないほど精巧にプリントできる機械も出てきたので、賭けだったけどプリント化に挑戦しました。
そこからクッションや風呂敷などの小物を制作し、2号店で販売したら初めて私たちのブランドを知ったという方も結構いらっしゃって。私自身YOKANGって結構知られているのではないかという甘い考えがあったけど、まだまだ浸透していなかったんです。それが分かったときこの選択は正解だったと思いました。
新井 弊社は新卒や未経験者が95%を占めるため、教育に力を入れています。仕事を楽しむためにはまず仕事ができるようにならなくはなりません。男女問わず、まずは自分の足で立てるようになりなさい、そのためにはたくさん仕事をして経験を積む必要があると伝えています。最近では社員の心と体の健康をサポートする取り組みをしています、ヨガ部や読書部などの部活も盛んです。健康で長く働いてもらうためには会社の支援は必須だと思います。
あと女性はホルモンバランスで月の半分は具合が悪いこともあります。でもその調子の悪さを仕事に出していいのかというとそうではない。自分の体や感情とうまく付き合う方法をみんなで模索しています。
人材育成のカギは?
安里 沖縄の人ってそもそも勉強しないですよね、私もですが(笑)。そこで勉強したくなる環境づくりをしています。うちはお菓子会社なのに自社のお菓子を食べる機会が少なかった。賞味期限や個数の説明は上手だけど味の説明はできない。よくよく考えると当然なんですよ。工場からお菓子は包装されて店舗に運ばれ、試食はお客様用。食べる環境がないんです。そこで社内にカフェを作って、いいコーヒーマシンと紅茶やソフトドリンクを準備して、書籍3000冊、新聞や英語を聞き流して勉強できるコーナーも設置しました。そこでお菓子を食べながら勉強できるようにしています。自社の商品を好きになると営業トークも冴えますよね。
あと企業の要は部課長クラス。リーダーがしっかり引っ張ってくれたら部下は動きます。部課長の役割を明確に会社が提示することが大事。誰かがやってくれるだろうとか、どこまでやっていいんだろうと思わせてはダメです。
山内 うちは職人という立場のスタッフが多いので、司令塔である私が毎回のコンセプトを指示し、スタッフに任せてそれぞれの考えをまとめさせることが人材育成になっていると思います。新しい生地、染め方、色をつくるよう要望するとみんなイキイキ楽しんでやってくれています。毎回新しいことに挑戦しないと私もスタッフも飽きてしまう。去年より面白い形、色、表現を出したいですね。
新井 指示を待つより自主的に動いた方が仕事は楽しいよということを伝えています。でも日本は言うことを聞く子がいい子という教育じゃないですか。それが就職した途端、意見を求められても言えないですよね。本を読んで知識を蓄積させて、小さな勉強会で発表させてアウトプットすることに慣れさせています。安里さんのおっしゃる通り、マネージャー層の教育が一番重要だと思います。
安里 私も一番下から階段上がってきたから、係長や課長のときに何を悩んでいたか分かるんですね。直属の上司にはそのときの自分の気持ちや立場を振り返って接するよう伝えています。そうしないと病みますから。あとトップクラスの管理職でも扱いづらい人や面倒な部下を避ける人いるでしょ。「自分がコントロールできないからって片耳で聞くな」ってよく言っています。そこは上司の人間力ですよね。女性は母性があるせいか、メンタルが弱っている人を見抜くのが上手。コミュニケーション能力が高いんですね。そこは生かすべきです。
(進行=男性は気づかないです)
山内 髪切っても気づかない男性多いですよね。
社会でより女性が輝くためには?
安里 私は男性女性あまりないんです。女性経営者が女性を大事にすると女性はわがままになります。男性はビジネスとして仕事に臨むけど、女性はどちらかと言えば感情で動く。女性の悪いところは3人集まったら人の悪口しか言わないところですよ。でも悪口は会社にとっては無駄だから、感情をコントロールして仕事に臨むよう徹底して指導しています。もともと女性はものすごく頑張り屋。適材適所はあるけど、男性と能力は変わらないと思っています。そして女性は理不尽な言い方では絶対動かない。男性は「会社のために利益を上げろ」って言われても働けるけど、女性は動かない。でも「自分たちの作っているものを一人でも多くの方に届けたいよね」というとめちゃくちゃ頑張るんです。女性の受け取り方を知ることは大切ですよね。
山内 弊社で一番女性が活躍している場所は販売です。特殊なブランドなので、全員私が知り合いの中からスカウトしました。彼女たちはアクセサリーデザイナーだったり家業を継いでいたり、背景もさまざま。時間を共有してお互い尊重しながら働いてくれています。アクセサリーデザイナーの3人とはYOKANGとのコラボで商品開発もしました。子どももいて、沖縄のいろいろな行事をこなしながら働いてくれているのがありがたいです。
新井 私は昨年出産したのですが、子育てって物理的にものすごく時間がとられるということを実感しています。そこで時短をはじめとした多様な雇用形態を提案しているところです。柔軟に働き方を選べるというのは長く働く上で重要なこと。あと事業所内に保育所を作りたいですね。
女性の皆さんへアドバイスを。
山内 共感力が高く、繊細な心を持つ女性だからこそ感情に注目してあげたいと常に思ってます。洋服以外に何かアドバイスできないかと思って、統計学や気学などを勉強して活用しています。女性は結構占い好きな方が多いので、すんなり話が聞いてあげられる環境を大切にしています。誰か寄り添ってくれる人がいればやる気が出てくることもあります。女性同士だからこそ弱っている時に声をかけてあげたい。そこから働きやすい環境や優しい社会が生まれるのだと思います。だから男性も、女性が髪型変えたりおしゃれしていたらたくさん褒めてあげてくださいね。
新井 子どもたちのためにも男女問わずイキイキと働く大人を増やしたいと思っています。周りの大人が疲れていたらあんなふうになりたくないと思うじゃないですか。それではもったいない。あと、女性は先々のことを考えて自分のキャリアにブレーキをかけがち。それは自分にも社会にとっても大きな損失です。社会のサポートや理解はもちろん必要だけど、もっと自分に投資してほしいです。
安里 沖縄は自信のない子が結構多くて、特に女性はものすごく自己肯定感の高い子と、ものすごく自信のない子に二極化しています。自己肯定感の高い子は放っておいても戦えるけど、すごくいいものを持っているのに遠慮してすぐに謝る子が多いことが気になります。スイートデビルを作ったとき、ちょっと高飛車な女性をイメージしたお菓子会社を作って、その子たちに勇気を与えたいと思いました。ポテンシャルは高いんだからとにかく強くなってほしいですね。そうじゃないと楽しくないもん。
【プロフィル】
安里睦子(あさと・むつこ) 1972年、那覇市生まれ。2010年㈱ちとせ印刷営業部から、グループ企業㈱ナンポーの企画部へ。女性ならではの発想をいかし、沖縄の菓子業界に新風を巻き起こす。2018年再婚を機に、女性経営者として、初めて『法人用銀行口座の旧姓使用』を求め、認められる。現在、ナンポーグループを率いる代表者。次世代の女性リーダーとして活躍する。
山内カンナ(やまうち・かんな) 1973年 沖縄県那覇市生まれ YOKANG デザイナー。幼少の頃から、紅型を洋服に取いれた第一人者である母の影響を受けながら育つ。1年間のフランス留学を経て沖縄で服飾を学び県内外のコンテストでグランプリを多数受賞。2001年 YOKANGブランド立ち上げ、県内外、香港、シンガポールでも販売。2010年、直営店を古波蔵にオープン、2017年よりデパートリウボウに直営2号店となるショップをオープン。
新井つかさ(あらい・つかさ) 1982年、奈良県生まれ。立命館大学卒業後、大阪の広告代理店に入社。グラフィックデザイナーを経験後、株式会社いえらぶGROUPに入社。2012年に沖縄支社を開設し、2014年株式会社いえらぶ琉球として法人化、代表取締役に就任。「沖縄で一番有名な会社を創りたい」というビジョンを掲げ、やりがいをもって働ける職場づくりに取り組む。2018年には那覇市「頑張る職場の健康チャレンジ」や沖縄県「人材育成企業」として認定を受ける。一児の母。