「このごろ、60代で亡くなった人をやたら思うんですよ。小津安二郎先生とか手塚治虫さんとかね。いつぽっくり逝ってもおかしくない年齢になったんだな……。目の前の仕事を大事にしよう。じっくりかみしめながら一生懸命に、と思っています」
そう語るのは、『愛しあってるかい!』など人気作に出演し、’90年代のトレンディドラマの火付け役を担った俳優の陣内孝則(60)。昨年、還暦を迎えた。
3月に再演されるミュージカル『プリシラ』(3月9~30日/東京・日生劇場にて)は、陽気な3人のドラァグクイーン(女装家)たちが、ショーに出演するためオーストラリア大陸の砂漠を旅する物語。出会いやトラブルを経て、明るく生きているが、それぞれに心には悩みや問題を抱えている。
「僕の役、バーナデットは性転換していて、ほかの2人とも世代が離れているんです。だから、どこか取り残された感がある。体はしなやかに動かないし感覚も違うし。半面、誇り高い。苦労して時代と闘って生きてきたんだね」(陣内・以下同)
演出は宮本亜門。宮本は、陣内が初めて出演した舞台『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(’84年)で振付を担当したという縁がある。
「亜門さんはね、僕をキャスティングするわりには歌を評価してくれてないのかな。『できるだけ歌わないで。歌詞をセリフにしちゃっていいから』って。これ、演出家がうまく歌えない役者によく言うことなの(笑)」
度肝を抜くど派手なメークや衣装が似合うよう、去年の夏から体重を10キロ落としたそうだ。
「カットフルーツでファスティング(断食)的にね。この作品、22回もの衣装替えが大変! 衣装といえば、ユナクくんなんか乳首が見えただけで客席のファンはキャ~! となるから、ついアドリブで『乳首を出せばいいというものじゃないのよ』とか言っちゃったりして。それがまたウケてしまって(笑)」
どうやらこの調子でキュートなアドリブの嵐を巻き起こすようだ。
「セリフをかむと『じゃ、もう1回言うわよ』って。失敗しても笑ってごまかしちゃう(笑)」
そんな本作から見えてきたものは……。
「女装すると解放されるんですよ。タガが外れて大胆になって、言いたいことをズケズケ言えるようになる。“こうあらねばならない”という縛りがなくなるんですよね。でも、自分は女性らしくあろうとするほどベースは男性的でないと。男と女は表裏一体だと感じます」