かつて米軍基地の門前街として栄えた金武町。タコライスや田芋のスイーツなど独特の味覚も楽しめ、県外や海外からの観光客も訪れる多国籍な街を記者がほろほろ(ぶらぶら)した。
気分はアメリカン
新開地のゲートをくぐり、すぐ左手にあるのが「GATE1」 1 。キャンプ・ハンセン第1ゲートの目の前にあることからその名を付けた。周辺の店がまだ開いていない朝10時から営業している。地元客や観光客、外国人客でにぎわう。
有名なタコライスとタコスは、こだわりの牛びき100%だ。ソースも手作りで、辛いのが苦手な人でも食べられるようにした。「辛いのが好きな人は自分で調節してね」とオーナーの伊波則夫さん(66)。
今は現場から引退したが、これまで多数のメニューを考案してきた。自慢の一品はタコライスの味をそのまま揚げたタコライスボールだ。米が油を吸わないよう工夫を凝らしている。1日100個は作るそう。人気のジャンボチーズバーガーや片手で持つのが大変なサイズの飲み物など、アメリカンな空気が感じられる店だ。
種類豊富 田芋スイーツ
次に向かったのは、スイーツの店「マルメロ」 3 。田芋プリンや田芋タルトなど10種類以上の田芋スイーツを販売している。宮城康守さん(73)と蘭子さん(70)の夫婦で経営して40年以上になる老舗だ。那覇や名護からも田芋商品を求めて足を運ぶ人がいる。
かつては田芋を使わない普通の洋菓子店だった。お客さんからの要望が多かったため、一番人気の田芋シューを筆頭に種類が増えていったという。
康守さんは「自然に数が増えたさ。金武といえば田芋だからね」と話す。沖縄自動車道のサービスエリア4カ所でも商品を売っている。
パッケージや看板に描かれたかわいらしい猫の絵は次男の忍さんがデザインした。家族で猫を3匹飼っており、店内には写真もたくさん飾られている。猫の形をしたケーキ箱も人気だ。
圧巻の刺繍技術
「しまざきししゅうてん」と刺繍された手作りののぼりと年季の入った刺繍入りスカジャンが気になってついつい中へ。昔は新開地に7店ほど刺繍店があったというが、今では島崎刺繍店 3 の1店を残すのみだ。
店主の島崎達弘さん(67)は、中学を卒業してすぐ刺繍の世界へ入った。沖縄市のセンター通りで見習いとして過ごした後、復帰前の1971年に金武町で島崎刺繍店をオープンした。
似顔絵や亡くなった犬、ジョン・レノン、CDジャケットなど注文はさまざまだ。GATE1の帽子とエプロンの刺繍も島崎さんの手によるものだ。絵の細かさや色のグラデーションなど、熟練の技は圧巻だ。壁にはこれまで手掛けたデッサンの数々。島崎さんは昔から絵を描くことが好きだという。
刺繍の魅力を聞いてみると「完成した時に達成感があること。お客さんにも喜んでもらえるしね。生きてる限りは続けるよ」と話してくれた。
米軍払い下げ品充実
店の外にずらりと並べられた迷彩柄の上着やズボン。手作りの看板には「嶺リサイクルショップ」 4 の文字が。店を経営する与那嶺守さん(71)が迎えてくれた。
米軍払い下げの軍服や作業服、靴などを数多く販売している。陸軍、空軍、海軍、海兵隊全てがそろっている。元の持ち主の名前が胸元に刺繍(ししゅう)されているものも多い。フリーマーケットで品の数々を集めた。仕入れた服や靴は、与那嶺さんがしっかり手洗いしている。
500円のシャツや、東京では4万円にもなるという海軍のゴアテックスを2万円で販売するなど、掘り出し物も多い。米兵が装備品などを探しに来店することもしばしば。若い女性客も来るようだ。
「服に付いているマークの赤い線が階級を表しているんだよ」と教えてくれた。与那嶺さんの話を聞きながら商品を見るのがおすすめだ。
甘味 あれもこれも
「コーヒーを飲みたい」「でもせっかくの金武町だから、特産のターンム(田芋)ももっと食べたい」。記者の願いを同時にかなえてくれるのが「リカモカカフェ」 4 。スノーアイスの「むるターム」はふわふわのスノーアイスに田芋の田楽が乗った金武町ならではの味だ。氷の合間から田芋の餅、大ぶりのタピオカも顔を出す。
上品な味! 盆・正月とおやつタイムが一緒に来た」。甘みの調和に記者が感動していると店長の重久和美さん(33)が「タームモンドもおいしいですよ」と教えてくれた。田芋と黒糖きなこ、チーズなど9種類の組み合わせが選べる、小さな宝石のような形のデニッシュだ。
スノーアイスや丁寧に焙煎(ばいせん)したコーヒーなどは約10年前の開店時からの定番メニュー。店頭には焙煎機もある。週に1度、平日の昼下がりに焙煎している。
運が良ければ店内で豊かな香りを楽しむこともできるという。
地域の憩いの場
お昼前、おなかがすいてきた記者たちがふらふらと立ち寄ったのは「めーかちわったーまちSHOP」 4 。店主の当山恵美子さん(72)が、近所から集まった皆さんにそうめんイリチャーを振る舞うところだった。
総菜や弁当などを扱うこの店は13年前に開店してから、模合などで近所の人々が集まる憩いの場だ。正月や旧盆、十六日祭(あの世の正月)などの際は地域の家庭から重箱などの注文が入り、大忙しだという。
すぐ近くに住んでいるという上江洲富佐子さん(76)は「若い人から90代の先輩まで一緒にご飯を食べてゆんたく(おしゃべり)して、生活の知恵を教わることもできる。皆、ここが生きがいみたい」と話す。いつもお昼ご飯を食べに来るという近所のおばさまたちも「注文しておけば魚のフライでも天ぷらでも、当山さんが何でも出してくれる」「炊き上手よ」と笑った。
(2019年3月3日 琉球新報掲載)