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本誌5月7日号にて、人生100年時代を生き抜くために「元気の秘訣を」教えてくれた大正生まれの女性たち。いつまでもエネルギッシュに活躍する彼女らが、「言い残したことがある!」と語り始めたのは、新時代を迎えるにあたっての、社会、そして女性たちへの“激励メッセージ”だった――。

 

「人間関係やお仕事など、ストレス社会が続くかもしれませんね。心が疲れているからと、SNSで愚痴を言ったり、お金をかけて癒しを求めたりする人がいるようですが、そんなときこそ、ぜひ台所に立ってほしいの。それだけで気持ちがスーッと楽になることがあるのですよ」

 

穏やかにそう語るのは「ばあば」の愛称で親しまれている料理研究家の鈴木登紀子さん(94)。大正13年に生まれた鈴木さんが料理研究家として活動しはじめたのは46歳のとき。ずっと信条にしてきたのは「料理は人の心を豊かにさせる」ということ。

 

「外食産業が成長し、いつでもどこでも調理されたものを買うことができる時代になりました。忙しい方も多いでしょうから、それらを上手に使って、手間を省くことも大事。毎日がんばらなくてもいいのです。でも、手を抜かないでほしいのは、おだし。削り節でだしをとるだけなら、10分もかからないですが、おいしいおだしは心を静めて、五感を研ぎ澄ませないと作れません。香りがフワッと立って、黄金に輝くようなおだしが仕上がるだけで心が満たされるものよ」

 

『きょうの料理』(NHK Eテレ)の講師を41年にわたって出演するほか、卒寿を過ぎたいまでも「鈴木登紀子料理教室」を主宰している。

 

「料理教室に集まってくれる生徒さんは、私がお鍋を持つと、メモをとる人が多いの。なかにはスマホで撮影しようとする人も。記録を残さないと不安なのかもしれませんね。でも、料理で大事なことは分量や手順ではありませんよ。食べる人が元気なら濃い味つけにする、疲れていたら優しい味つけにする……料理をすることは、相手をおもんぱかる想像力を働かせることでもあるのです」

 

『やさしい心で、やさしいお味に』彼女が料理教室でつねに生徒たちに教えていることは、あらゆることに通じる。

 

「私は母親から『思えば、思ってくれる』と教えられて育ちました。これは、仕事にも言えることなのではないかしら。心をこめて成し遂げれば、必ず見返りがあるはず。料理だって、いやいや作っていたら、とんがった味になってしまいます。大切な人が喜ぶ顔を思い浮かべて作れば、“おいしい”と言ってもらえるのです」

 

87歳のときに大腸がん、89歳で肝臓がんが見つかり、90歳を過ぎてから心筋梗塞も経験した鈴木さん。健康との問題に何度も直面したからこそ、「生きることは食べること」をモットーに、食と向き合い続けている。

 

「電車の中でおにぎりやパンを食べている若い人を見ると、残念だなと思います。せわしない車内ではなく、公園や景色のいいところで食べたらもっとおいしくなるのにね。ぜいたくをするのではなくて、心に余裕がないときこそ、食事を楽しんでほしいですね」

 

SNSの「いいね!」より、日ごろの食事が、私たちの心を豊かにしてくれるはずだ。

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