激動の平成が終わりを告げてからまもなく1カ月。30年の間、本誌は時代を彩った驚きの現場を多数目撃してきた。そのなかでも特に反響の大きかったスクープを改めてお届けしたい。
『天使なんかじゃない』など数々の名作を生み出し、女性から圧倒的な支持を集めるマンガ家・矢沢あいさん(52)。しかし病に倒れ、大人気マンガ『NANA』の休載を発表してから10年が経とうとしている。今も闘病を続ける彼女が本誌に語った、ファンへのメッセージとは(以下、2010年5月4日号掲載記事)
花冷えが厳しかった10年4月上旬、東京都心の大病院前でタクシーを降りる女性に目が留まった。辛そうな様子でタクシーを降り、やっとといった様子で歩いている彼女は人気マンガ『NANA』の作者・矢沢あいさん(当時43)だ。
プライベートが全くというほど伝えられていない矢沢さんだが、本誌は05年に東京郊外にある自宅で独占インタビューを行った。彼女は老猫をあやしながら、18歳からの長い付き合いになる同居恋人と二人三脚で、マンガを描き続けてきた半生をざっくばらんに話してくれた。彼女は好奇心いっぱいに瞳を輝かせ、記者を逆取材したものだった。
「取材って本当にそんな感じでやってるんですか? 面白いですね。もっと記者さんたちの仕事を詳しく教えてください!」
矢沢さんがコミック21巻で、累計5千万部の売り上げを記録している『NANA』を突然休止したのは09年6月のことだ。『Cookie』(集英社)の誌面およびHPで発表された休載理由は、矢沢さんの急病だった。休載直後、ファンサイトには矢沢さんへの励ましのメッセージが殺到した。
しかし、あれから10ヵ月になる現在まで、彼女の様子は伝わってこない。『Cookie』誌HP上のお知らせも《矢沢先生は数ヵ月の加療・安静を必要とするため》、連載再開は未定となったままだった。矢沢さんが入っていったのは、完全予約制の女性専門医療センターだった。
「ここは、女性の心と体の健康のための医療センターですね。スタッフも全員女性で、各科の専門医が連携をとりながら診療に当たります。女性は、心と体の微妙なバランスで体調を崩しやすいため、女性に人気のあるセンターです」(医療関係者)
後日、本誌は帰宅途中の矢沢さんを直撃取材した。最初は戸惑いぎみだったが彼女も、5年前の取材を思い出したのか、笑顔を見せてくれた。
――休載が続き、ファンの方々が心配しています。お体の具合はいかがですか?
「実は今日も今、病院から帰ってきたところなんですよ。ファンの方が心配してくださっているんですか。でも、ごめんなさい。今はまだ、仕事再開の目途は正直、立っていない状況なんです。元気になったらきっとまた『NANA』を皆さんにお届けできるようになると思います」
――一時は緊急入院、重病説まで流れましたが、ご自宅から通院できるほど回復されたということでしょうか?
「いろいろ言われているみたいですけど、だいぶよくなってきているんですよ。マンガを描くのは体が資本なので、今はとにかく体がよくなることだけに専念しようと心に決めて、治療に励んでいます。とても体力を使う仕事なので体がまだ持たないんです」
――そういえば、前回、毎日睡眠時間が2時間とおっしゃっていましたが……。
「今思えば、それがよくなかったんじゃないかなと思うんですけど……。前に一度、倒れて、再開し、無理してすぐにまた、倒れてしまったという苦い経験があるので。今回は絶対にその轍を踏まないように、ちゃんと治してから再開したいと思っています。倒れてから、まだ一度もペンは握っていません。ゆっくり、のんびりさせていただいています」
高校生でマンガ家デビューを果たした矢沢さんだが、彼女を25年間にわたって支え続けたのは、同居恋人だった。矢沢さんは当時、本誌の取材にその彼との関係をこう語っていた。
「二人三脚で支え合う関係? 愛しているから支えてやりたい? うーんそういう関係って素敵ですよね(笑)」
同居恋人はどうしているのか? 闘病中の矢沢さんを看病しているのか? 彼のことを矢沢さんに質問すると。
「ああ、彼は元気です。彼も『気長にやっていこう。体を治せば、また好きなマンガが描けるから』って私を支えてくれています。どんな病気かいっさい言ってないせいで、皆さん心配してくださっているみたいなんですけどね。決して治らない病気にかかっているわけではないんです。なので、どうか私に時間をください。『気長に治療をすれば、少しづつ回復していく』と、医者の先生もおっしゃってくださっているので。この矢沢あいを信じて、ファンの方には見守っていただければなと思っています」
彼以外のアシスタントはおかず、睡眠も命をも削るようにして、マンガを描き続けた矢沢さん。ファンもしばらく辛抱して、元気になった矢沢さんの完全復活を待ちたい。