与党の勝利で、引き続き推し進められるアベノミクス。不況に入りつつあるいま、広がり続ける格差はどうなるのか。消費増税も含め、私たちの家計にどんな影響があるのか専門家に聞いた。
「与党が消費税10%の増税を掲げる一方、それに野党はオール反対とわかりやすい選挙でした……。この選挙結果は、格差が急激に拡大する最悪のシナリオの序章になるかもしれません」
こう語るのは、経済アナリストで獨協大学経済学部教授の森永卓郎さんだ。7月21日に投開票が行われた参議院選挙で与党が多数を占めた。これにより10月から消費税は8%から10%に引き上げられることがほぼ確実となった。
元・神戸大学大学院教授で「暮らしと経済研究室」主宰の山家悠紀夫さんはこう語る。
「所得の低い人ほど負担が重くなる消費税は、税にとって最も大切な原則である、所得に応じて税を負担する『応能負担』に反する不公平税制です。増税後は消費が落ち込み、物価が下落し、企業業績も悪化。社員の賃金が減らされるため、さらに消費が冷え込む“デフレ・スパイラル”に陥ります。そのしわ寄せは庶民にいくのです」
社会保障や介護・教育分野などに大胆に政府支出を求める「反緊縮」を唱えてきた立命館大学経済学部教授の松尾匡さんもこう語る。
「海外の状況も悪化しています。米中貿易戦争に、イラン情勢による原油高の懸念、泥沼化する日韓関係など、世界経済が不透明なとき。これまで日本経済を支えてきた外需に期待できません。そんな状況での増税は、風邪のひきはじめに冷水に飛び込むようなもの。とくに体力の弱い商店、中小企業は、消費税が上がっても価格に転嫁できません。自腹を切るしかなくなり経営が悪化。倒産したり廃業したりするケースも増加します。それにともない、職を失う人も増えていくでしょう」
森永さんが語る。
「消費増税以外にもアベノミクスのさまざまな政策が積み重なり、’08年のリーマンショック以上のダメージを日本経済に与える可能性も。現在は全世代の失業率が2%台と安定していますが、’08年のレベルまで悪化していくことが考えられます。倒産件数も、リーマンショック級の悪い数字を示すことになるでしょう」
老後の生活を支える年金の手取り額も減っていくと、山家さんはこう予想する。
「年金の手取り額は、額面から国民健康保険料や介護保険料が引かれます。不況による財政悪化で社会保険料がアップするなど、悪条件が重なると手取りで月5,000~6,000円減っていくことも考えられます。さらに、物価が上がっても年金が増えない『マクロ経済スライド』が続くことで、今後も年金受給額を減らしていくことが予想されます。政府は、低年金者向けに最大年6万円を給付する増税対策をするようですが、焼け石に水となるでしょう」
未曽有の大不況は待ったなしの状況のようだ。
「消費税対策として、安倍政権は消費増税分をポイントで還元するなどの対策を立てています。しかし、その多くが1年ほどの期限付き。東京五輪の特需も含めて、高い“崖”を作っているようなもの。五輪が終われば、日本全体がその高い崖から一気に真っ逆さまです」
と松尾さん。最後にこう語る。
「庶民は『年金2,000万円不足問題』があったことで、消費を抑えて貯蓄を増やそうとしています。そのうえで、景気が悪くなると、さらに消費を減らすので不況を悪化させてしまうのです。不況のスパイラルから脱するには、一般庶民にもっとお金が回るような、格差をなくす政策が必要です」
庶民に厳しい政策がこれからもとられるのか、注視する必要がある。