武内直子氏(52)原作の「美少女戦士セーラームーン」。そのショーを楽しむことのできるレストラン「美少女戦士セーラームーン -SHINING MOON TOKYO-」が8月15日にオープンした。
作品の舞台となっている聖地・麻布十番に開店したということもあり、大きな話題を呼んでいる。Twitterでは足を運んだというファンから《本格的なショーだし可愛いし世代としては最高だった!!!》《あの短い時間で、女の子の可愛さと強さを体現できるとかもう信じられない。胸がいっぱい》といった声が。また24日にTwitterでアップされたショーのアンコール動画は、5.2万回のリツイートと13万回の“いいね”を記録。さらに注目を集めることとなった。
もともと「セーラームーン」は漫画雑誌「なかよし」の92年2月号に初めて掲載された作品。17年には連載開始から25周年を迎え、話題となった。しかし原作自体は、97年3月をもって終了している。にもかかわらず人気は衰えることなく、今なお多くのファンから愛されているのだ。ローラ(29)や中川翔子(34)、若槻千夏(35)といった著名人も同作のファンで、成田童夢(33)のようにファンを公言する男性も増えている。
コラボグッズも続々と製作されており、アパレルやコスメから文具までと幅広く展開。さらに今月23日にはユニクロのUTシリーズに登場し、今秋には「Samantha Thavasa」とのコラボアイテムが全国の店舗で展開される予定になっている。なぜ「セーラームーン」はここまで根強く愛されるのか。「セーラームーン世代の社会論」(すばる舎)著者の稲田豊史氏は、こう語る。
「『セーラームーン』では少女たちが物語の“サポート役”でなく、美少女戦士という“直接闘う存在”として描かれている点が重要です。当時、『女の子たちが主体的に敵と戦う』という設定はメジャー作品ではほとんど存在しませんでした。そのため先進的であり、インパクトがあったのです。また作品が20周年を迎えたころ、セーラームーン世代はおおむね20代後半。多くの人は社会に出て、仕事面や恋愛面でちょうど壁にぶち当たるような年齢でした。そこで再び同作に触れることで勇気づけられ、リバイバルヒットに繋がったのだと考えています」
主人公・月野うさぎを筆頭に、作中のキャラクターたちはメイクアップすることで強くなっていた。また戦闘中でもキラキラしたアイテムを身につけていた。稲田氏は「セーラームーンは、戦うからといって『美しさを犠牲にする必要はない』と思わせてくれた作品」と分析。そして「キャリアを積むため、女性らしさや恋愛を犠牲にしない。すべて100%叶えたいけれど、それは男性や恋愛のためではなく自分のため。そういった女性像を描いた、日本での原点的な作品といえるでしょう」と評価する。
また美術を専門とする沖縄県立芸術大学准教授・土屋誠一氏は同作について「結果として『女性の解放』を描いたといえる」と解説。さらに「多様性の器にもなっている」と言う。
「作品には性格や髪型や境遇といった面で異なる、“あらゆる少女たち”が描かれています。制作側がどこまで意識していたかはわかりませんが、観る側のジェンダーロールの多様性を確認するきっかけとなっていました。そしてストーリーの性質上も、『いろんな人がいるほうが楽しい』と気づくことができる内容になっていたと思います」(土屋氏)
さらに敵キャラクターのクンツァイトとゾイサイトは、アニメ版ではゲイカップルという設定だった。土屋氏はこの点にも注目する。
「作品では彼らのセクシャリティを否定するのではなく、シリアスな扱い方をしていました。セーラームーンは彼らの性的指向が嫌だからではなく、彼らの企みを阻止するために戦っていたのです。キャラクターの多様性を描き、パーソナリティを否定しない。そんなセーラームーンを見て『いろんな子がいるし、いろんな性の形がある。そして、誰もが輝くものを持っている』と多様性をうまく認識することができるのです」
前出の稲田氏は、「セーラームーン」のこれからについてこう締めくくる。
「多感な時期に影響を受けた作品は価値観のベースとなり、それぞれの生き方の指針が凝縮されています。社会現象になるほど大きな反響のあった作品ですから、『昔好きだった』では終わらない耐用年数の長い作品となり得ます。フランスや北米のように海外でも人気がありますから、日本に限らず海外でも新たな古典作品として輝き続けるのではないでしょうか」