画像を見る

「東京国際映画祭で無事上映されて良かったです! チケットも完売だったそうですし、お客さんの良い反応も感じることができて最高でした。映画化のお話を頂いた時は『盛大なドッキリなのかも…?』と夢見心地でしたが、完成された作品を見たときは涙が止まりませんでした。制作陣の方々の思いも感じまして、ただただ誇らしかったです」

 

そう語るのは、12月6日から全国で公開される映画『“隠れビッチ”やってました。』の原作者・あらいぴろよさん。“隠れビッチ”とは普段こそガサツなものの、男性を前にすると清純派に擬態。そして好きにさせて、告白された途端に振る――。そうやって数百人もの男性を翻弄してきたあらいさんの自伝的エッセイを映画化した作品だ。

 

主人公の荒井ひろみ役を演じるのは本作が映画初主演となる佐久間由衣(24)。さらに荒井に好意を寄せる三沢さんを演じる森山未來(35)を筆頭に、村上虹郎(22)や光石研(58)といった豪華キャストが顔を揃えた。ハードな自身の実体験を演じきった佐久間には、あらいさんも驚いたという。

 

「佐久間さんは普段透明感が抜群な方ですから、『本当に佐久間さんが私に…?』と思っていました。しかし劇中で野太い声を出したり、鼻をほじったり……。『事務所は本当にOK出したの?』と笑っちゃうくらい私でした(笑)また、劇中のファッションも全部可愛くて、特に青いワンピース姿が『隠れビッチってコレ!』という感じでしたね。服装・メイク・アクセなど細かい所にもぜひ注目&参考にして欲しいです」

 

また、あらいさんの実生活では夫にあたる三沢さん役の森山には意外な苦労話が。

 

「そもそも、夫の希望で彼のバックボーンなどは描かないで、と言われておりまして。そのせいで夫の情報は全然なかったこともあって、森山さんは役作りをする際にすごく悩んだそうです。『ひろみを好きになる理由がわからない』と言われて……。そうですよね~、ごめんなさい、と思いました。そして表に夫の話を出さないことを条件に、夫のバックボーンを伝えたんです。それを森山さんと監督が話し合い、噛み砕いて役を作ってくださったそうです。この映画に携わった全ての方が、魂こめて作り上げてくださったのだと感じました」

 

“隠れビッチ”の原点はあらいさんの中学時代にまでさかのぼる。

 

「隠れビッチのキッカケは中学時代ですね。その時期は生きるので精一杯でしたが、色恋にも興味が出てくる時期で。色づき始める同級生を軽蔑しつつ、いざ自分に恋愛感情を向けられると『こんな私でも選ばれた!』とメチャクチャ気持ちよくなっちゃって。それから病みつきになっていきました」

 

異性から向けられる愛情の快感に目覚めたあらいさんは、気づけば“隠れビッチ”となっていた。

 

「隠れビッチの時は清純派に擬態していたので、服装が大事でした。顔や体型に合っている服をよく研究しましたね。あと一緒にいる男性を全然叱りませんでした。誉めて気持ちよくさせて『この子といると気持ちいい』って思わせるのがポイント。時間にルーズでも責めたりしないので『おっとりしてるんだね』って。当然心の中は『時間通りに来いや!』と思ってますけどね(笑)。これから先のことを考えてないので、いくらでも耳障りの良い事が言えるんですよね。その分、相手は私にのめり込み、より一層チヤホヤに磨きがかかるのでそこだけ見ればWIN WINな関係でした」

 

明るく語るあらいさんだが、“隠れビッチ”になる原因を作った過去の暗い出来事が。8月に発売された『虐待父がようやく死んだ』でも描かれているように、父親から暴力や性的虐待を受けていたのだ。壮絶な体験によって自己肯定感を失ったあらいさんは、反動的に男性の愛情を求めていった。しかしいっぽうでパートナーには“愛されている証拠”を求め、大声で怒鳴るなど理不尽な言いがかりをしていたという。

 

「私は大きな声を出すほど『気持ちが伝わる!』と思っていた時期がありました。もちろんそんなことないと後で気付くのですが、父親は酒乱で怒鳴り、母親も泣き叫んでいたので大人はみんな基本大声。それが日常だったの私の中の感覚はズレてたんです。また、一番はじめに出会う人間、親と信頼関係を築けないまま、他人を無条件に信じることはやはり不可能で。せっかく好意を持ってそばにいてくれる人のことさえも疑ってしまいましたね」

 

あらいさんは、自分のなかで“ルール”を決めていたという。

 

「ヤラせない、これにつきました。原作や映画に出てくる“アヤ”は寂しや急ぎ過ぎた愛情表現ですぐに体を重ねてしまうのですが、私はそうしませんでした。病気や妊娠が怖いという気持ちもありましたが、裸の体を見せることは、私からすると清純派の武装を解くこと。私が私に戻ってしまう。だからヤラせない隠れビッチとなりましたが、ヤラせないことで口説く側も本腰入れてチヤホヤしてきますし、私にとっては結果オーライとなりました」

 

出版後、あらいさんのもとには『こんな状態で社会に出てくるな』『病院行けよ』といった厳しい声が寄せられることもあったそうだ。それでも、彼女は発信することをやめなかった。そして「自己責任」が声高に叫ばれる現代社会に対して疑問を呈する。

 

「今の社会には『逆境に負けず、自分の力で乗り越えることは素晴らしい』という空気感がある気がします。それ自体は別に悪いことではありませんが、とても苦しい状況にある人が『辛いのは自分だけじゃないんだ』と自分を追い詰めてしまう人も少なくないんじゃないか? と感じますし、私自身結果的にいろいろな思いを「乗り越えた状態」になりましたけども、もっと早く人に助けを求められればよかったといつも思いますもん。世の中がもっとフランクに頼れるような環境になっていったらいいなと思っています」

 

最後に映画を見る人に対してメッセージを送ってくれた。

 

「監督は完成披露試写会のインタビューで『特別な事件がないこの話をまとめるのは大変だった』とおっしゃっていました。もうほんとその通りで、人生って大きな事件があるわけじゃない。でも本人としては辛かったり、苦しかったり、抱えているものがある。そんな人生の一瞬を監督は丁寧に切り取ってくださいました。それもあって、年代問わず刺さるものがある映画になったと思います!ぜひ皆さんエンドロールの後まで、楽しんで欲しいです」

 

【PROFILE】
あらいぴろよ

イラストレーター。”ゆるいかわいいおもしろい”をモットーに、雑誌や書籍、Web・広告など幅広くイラストや漫画を提供。2016年に「“隠れビッチ”やってました。」(光文社刊)で漫画家デビュー。著作に、「ワタシはぜったい虐待しませんからね!」(主婦の友社刊)、「美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。」(光文社刊)、共著に「マンガでわかる 今日からしつけをやめてみた」(柴田愛子監修・主婦の友社刊)、「マンガでわかる 離乳食のお悩み解決BOOK」(上田玲子監修・主婦の友社刊)など。最新作は「虐待父がようやく死んだ」(竹書房)。

 

映画「“隠れビッチ”やってました。」(配給:キノフィルムズ/木下グループ 原作:『“隠れビッチ”やってました。』あらいぴろよ 光文社刊)は12月6日全国公開!

 

「“隠れビッチ″やってました。」(光文社刊)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334978877

【関連画像】

関連カテゴリー: