有馬頼底さんは金閣寺や相国寺の住職を務め、書の達人としても知られる。 画像を見る

「駐日ローマ教皇庁大使館から依頼状が届いたのは、11月初めのことでした」

 

そう語るのは、臨済宗相国寺派管長の有馬頼底さん(86)。上皇陛下のご学友でもあり、京都仏教会代表理事も務める日本仏教界の重鎮だ。

 

“書の達人”としても知られる有馬さんへの依頼は、フランシスコ教皇のために《すべてのいのちを守るため》という言葉を墨書することだった。この言葉は教皇の今回の来日のテーマとなっていた。

 

カトリック教会のトップが、日本の高僧の墨書を求めるというのは意外に思えるが、これまでもフランシスコ教皇は、宗教の違いを超えた融和を訴え、仏教徒の多いミャンマーやイスラム教徒の多いバングラデシュなども訪問しているのだ。

 

また有馬さんと教皇は2年前にも対面していたという。有馬さんが続ける。

 

「’17年11月、バチカン国際音楽祭に招かれた際に、教皇にはお会いしています。カトリックの総本山・サン・ピエトロ大聖堂で行われた共同祈願で、日本の仏教者としてスピーチさせていただいた数日後に、謁見する機会を得たのです。通訳を介して親しくお話しさせていただいたことをよく覚えています。教皇は『戦争や核兵器は平和をもたらさない』と、おっしゃっていましたが、私も『仏教者としてまったく同じ思いを抱いています』と、申し上げました。今回の依頼も、そういったご縁を教皇が覚えていらしたからでしょう」

 

和紙を赤色・白色と2枚用意し、有馬さんは心を込めて書をしたため、2幅の掛軸にしつらえた。

 

「教皇が来日した11月23日の夜、駐日ローマ教皇庁大使館で掛軸をお渡ししました。教皇は私の顔を見ると名前を呼んで、掛軸のお礼を述べてくださったようです。通訳がいなかったので正確なところはわからないのですが(笑)、“白の掛軸は今後の訪問先で展示し、赤はバチカンで飾っておく”と、おっしゃっていたようですね。教皇の積極的な活動を目の当たりにして、私たち宗教者は、もっとはっきり発言すべきと、改めて思いました」

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