オリンピックイヤーが幕を開けた。姉妹で金メダルを目指す2人、レスリング女子代表選手の、川井梨紗子選手(25・ジャパンビバレッジ)と川井友香子選手(22・至学館大学・以下姉妹は敬称略)に注目が集まる。
姉の梨紗子は、リオ五輪で金メダルを獲得。さらなる高みを目指し、五輪4連覇の伊調馨選手(35)との激戦を制して東京五輪代表選手に選ばれた。
妹の友香子も予選を勝ち抜き、日本代表に。“姉妹で五輪”という夢が叶ったのだ。しかし、五輪への切符を勝ち取った代表争いには、大きな波乱があったーー。
「友香子の様子はどう?」
「体は動いてる。大丈夫。あとは気持ちだけ」
心配そうな母・初江さんの問いに、梨紗子は一つうなずいてそう答えた。
昨年9月20日、カザフスタン。
この日、ヌルスルタン競技場ではレスリングの世界選手権が行われていた。この大会でメダルを取れば、東京五輪出場が内定。順調に57kg級決勝まで駒を進めていた姉の梨紗子は、ホテルで、62kg級に出場する友香子を応援するつもりだった。しかし、試合は中継されず、会場の初江さんに電話をしても繋がらない。
「居ても立ってもいられなくなって、再び会場に舞い戻りました」
途中で、母の電話が繋がった。
「友香子、勝ったでしょ?」
「負けたーー」
友香子は泣き崩れているという。
「私も決勝を控えていたけど、それどころじゃなくなって」(梨紗子)
誰もが友香子の東京五輪を諦めかけたとき、敗者復活戦に出られるという知らせが舞い込んだ! 3回戦で敗退した友香子。しかし対戦相手が決勝まで勝ち上がったため、後日の敗者復活戦に出られることになったのだ。
観客席で試合を待つ母の元へ梨紗子がやってきたのは、友香子の3位決定戦開始ギリギリ。それまでずっと、ウォーミングアップ場で妹に寄り添っていた。
2人が心配していたのは、前日の負けで一度は五輪を絶望視された友香子の精神面。梨紗子はいつものように握手をして、「いつもどおりにやれば、大丈夫だから」という言葉とともに友香子を敗者復活戦に送り出した。
母にも妹の調子を聞かれ、「大丈夫」とうなずいた梨紗子の声は力強かった。
試合開始。
姉の言葉を胸に、背中を観客席の姉と母の絶叫に押されて、友香子は積極的に攻め続けた。祈るような気持ちで友香子を見守る母と姉の手に力が入る。ポイントは相手が先行したものの、友香子は落ち着いていた。次第に2人の声援にも熱がこもった。
「友香子! 気持ち! 気持ちを強く!」「あと1分!」
試合終了のブザーが鳴り、審判が友香子の腕をとって高々と持ち上げた。12対1のテクニカルフォール勝ち。銅メダル獲得だ! 同時に、姉妹そろっての東京五輪出場も決まった。梨紗子は、すでに57kg級で金メダルを取っていた。
試合後、梨紗子は記者の囲み取材を受けていた友香子の元へ駆け寄って、抱き合った。
「試合中、すごく息が上がってすごく苦しかったけど、家族の声援が力になりました」
と、友香子。梨紗子も頬を紅潮させてこう話す。
「姉妹で五輪へ、それも東京五輪に出場することが一つ目の夢で、それが本当に達成できちゃったんで信じられない気持ちです」
東京五輪に関して、初江さんはこう語る。
「姉妹で五輪の内定をもらえたのは、1人の選手としてそれぞれの頑張りがあったからでしょう。ただ、2人の中でどちらか1人がくじけそうになった時はあったかもしれません。そんなとき、『姉妹で五輪』『姉妹で五輪』と口に出すことで、自然と頑張ってこられたのだと思います」
“姉妹で五輪”の夢は叶えた。次に目指すものは母の首にかけてあげる2つの金メダル。姉妹の戦いは、さらなる夢に向かって続いていく。
「女性自身」2020年1月21日号 掲載