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「いつ大事故が起きても不思議ではありません。羽田は世界の大空港のなかで、最も着陸が難しい危険な空港になってしまった……」

 

怒りに満ちた表情で、このように話すのは、ジャンボジェット(B747型)の飛行時間で世界一の記録を持つ、元日本航空機長で航空評論家の杉江弘さん。

 

3月29日、東京都心部の上空を航空機が飛ぶ、羽田新ルートの運用がスタートした。国の計画では、南風のときに都心部上空を着陸体勢で1,150〜340メートルの低空飛行で通過。時間帯は15〜19時の4時間。1時間あたり44回通過するので、約80秒に1回の割合で航空機が上空を通ることになった。

 

杉江さんによると、今回の新飛行ルートの運用開始は、航空機を利用する乗客にも深刻なリスクを及ぼすと、警鐘を鳴らす。

 

「昨年7月、着陸の最終進入ポイントの降下角が3.0度から3.45度に引き上げられました。パイロットにとって、0.1度大きくなるだけで滑走路の見え方が変わります。それが0.45度も変わると、ジェットコースターのような急降下で地面に突っ込んでいく感覚に。着陸操作が非常に難しくなることで、着陸時の大事故につながる可能性が高まった」

 

では、なぜそんな危険な急角度の着陸方式に変更されたのか。国土交通省は次のように説明する。

 

「住民説明会などで、騒音対策についてさまざまなご意見が多く寄せられました。そこで降下角度を3.0から3.45度にすることによって、地上との距離をより確保し、騒音を軽減することにしました。圧迫感を少しでも軽減できるように高度を上げる方策を取り入れたのです」(首都圏空港課)

 

国交省は、あくまでも“騒音対策”のためだと言うが、杉江さんは変更した理由は別にあると語る。

 

「米軍の横田空域(※)です。A滑走路の一部が横田空域にかかっているんです。昨年1月、日米当局が、横田空域を使うことに合意したのですが、米国から通過高度を3,800フィート(約1,150メートル)以上という制限を付けられた可能性がある。これはある大手航空会社の内部資料を入手してわかりました。着陸体勢に入る最終降下地点は中野駅付近ですが、その付近までは高度を下げられない。その最終降下地点とA滑走路の端っこを結ぶと3.45度に。その角度で降下せざるをえなくなったのです」

 

横田空域にかからないC滑走路の降下角度まで、リスクが高い3.45度に引き上げた理由も、「国交省は“騒音対策”と言った以上、地元住民への騒音軽減の公平性の観点から、ついでに引き上げた」と推測している。

 

杉江さんは、これから夏場に向けて、パイロットたちにさらなるプレッシャーがのしかかるという。

 

「近年、日本の夏は気温が35度を超える猛暑日が多い。気温が上がり空気密度が低下すると、高度計が実際の高度より低く出ます。つまり夏場は、高度計で示される3,800フィートよりも、もっと高い位置を飛んでしまうのです。そうなると最終降下地点からの着陸角度が、3.45度よりもさらに大きくなり、猛暑日だと3.7度以上になることも。これはパイロットにとって恐怖でしかない。本当に危険です」

 

今年1月、世界100カ国以上の航空会社に所属するパイロット10万人を組織する団体『IFALPA』(国際定期航空操縦士協会連合会)も、新飛行ルートの降下角3.45度について、安全上の懸念をすでに正式に表明している。2月には、実際に乗客のいる旅客機で試験飛行が行われた。そこでエアカナダ航空のパイロットは、急角度の羽田着陸をあきらめ、成田に着陸するということが起きている。

 

国交省は「安全性に問題はない」ことを強調するが……。

 

「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で便数が激減するなか、これほどリスクのある新飛行ルートを強行する必要はなかったと思います。もし運用を延期した場合、その間に、ルート直下の住民たちの反対の声がますます広がり、実施しにくくなるという懸念があったのでしょう」(杉江さん)

 

事故で羽田空港が“ロックダウン(封鎖)”されないことを祈るばかりだ。

 

(※)横田空域とは、東京都の在日米軍横田基地や神奈川県の米海軍厚木基地に離着陸する米軍機を管制するために米軍が管理する空域。最低で高度2,450メートル、最高で7,000メートルまでを米軍が管理下に置き、日本の航空機がその空域を飛ぶときは、米軍の許可が必要。

 

「女性自身」2020年4月14日号 掲載

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