「写真は苦手」と撮影中も常にしゃべっていた波乃(撮影:鈴木ゴータ) 画像を見る

「70年を振り返って? 私の人生、何だったんだろう、っていうのが正直な感想」

 

ちゃめっ気たっぷりに笑う女優・波乃久里子(74)は、4歳で初舞台を踏み、’61年から劇団新派に参加。以後、数多の舞台、映画等で活躍を続け今年、芸能生活70周年を迎えた。

 

「これまで2,000以上の役を演じてきました。役になりきってる時間はいいけれど、『素顔の波乃久里子って何者?』って、自分でもわからなくなってしまって(苦笑)。昔、杉村春子先生に言われたんです。『毎月毎月お芝居やってたら、人間性も何もわからなくなっちゃいますよ』って」

 

節目の年だが、多くの仕事がコロナ禍でキャンセルになった。

 

「以前は『私から仕事を除いてしまったら、きっとおかしくなっちゃうだろうな』という不安もありました。ところが、このコロナで気づかされたこともあって。前向きになれている自分もいたんです」

 

そう思わせてくれたのは、家族の存在だった。

 

「父が遺してくれた敷地で、妹と弟の家族と一緒に、5世帯で暮らしているんです。私は結婚もしてませんし子どももいませんが、弟・(十八代目中村)勘三郎の子、勘九郎と七之助、それに勘九郎の子どもたちの勘太郎と長三郎、お嫁さんたちや妹が、とっても私を気遣ってくれる。家にいる時間が長くなって家族の愛情とか絆を改めて実感できたことを、感謝しています」

 

この70年、なかなか愛でることのなかった自分自身の時間も持てるようになった。

 

「私、生まれて初めて、ご飯を炊いたんですよ、忘れもしません、今年の3月5日です(笑)。最近は料理番組もよく見ていて、いろいろ作ってます。勘九郎たち? 『えー、マロン(久里子の愛称)が料理!?』って驚いてます。『食べて』って勧めたら『とんでもない』って。失礼しちゃいますよね(笑)」

 

先ごろ大団円を迎えた大ヒットドラマ『半沢直樹』では、旧知の歌舞伎俳優たちの熱演を楽しんだ。

 

「あれも一つの歌舞伎、背広を着た歌舞伎(笑)。あのお芝居が世間に受け入れられるか、皆さん勝負したんだと思います。弟がいま生きていてあのドラマを見たら、何と言ったか聞いてみたいですよね」

 

波乃久里子はコロナ禍による世の中の変化を、しみじみと、そしてタフに受け止めている。

 

「こんなこと言うと笑われそうですけど、私の人生、これからって気がしてるんですよ、こんな年になってやっと……(笑)」

 

「女性自身」2020年10月20日号 掲載

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