まだまだ新型コロウイルスについてはわかっていないことが多い。多くの人が訴える後遺症もその一つだ。コロナ流行直後から後遺症に注目してきた医師が語る最新情報ーー。
「日常生活もままならないほど“コロナ後遺症”に苦しんでいるのに、病院では〈心の病いだ〉〈気の持ちようで治る〉などと言われ、死を考えるほど追い込まれている方がたくさんおられます。とくに女性は、男性に比べて約1.5倍、後遺症が出る人が多いことがわかってきました」
そう話すのは、ヒラハタクリニック(東京都渋谷区)の院長・平畑光一さん。“新型コロナ後遺症外来”を設置し、これまで400人以上の患者を診てきた。“コロナ後遺症”という言葉は聞いたことはあっても、どのようなものかを知らない人は多いだろう。平畑院長は、こう続ける。
「その症状は、動けないほどの倦怠感や、気分の落ち込み、胸痛・筋肉痛など体の痛み、頭痛、息苦しさ、食欲不振、嗅覚・味覚障害、脱毛など多岐にわたります」
ヒラハタクリニックを訪れる患者が訴える症状のなかで、特に深刻なのが“倦怠感”や“食欲不振”だと平畑院長。
「うちに来る患者さんで症状が特にひどい方は、『歯ブラシを持つのもつらい』とか、『歯を磨くために風呂の浮力を利用しています』なんておっしゃるほど。強い倦怠感で日常生活や仕事に支障をきたしている方が多いんです。先日も、小さな子どもが2人いる40代の女性がいらして、体がだるくて子どもの世話をまったくできなくなってしまった、と。ほかにも、ほとんどモノが食べられなくなったという30代の女性も来ました。痩せ細っていく妻を、旦那さんがオロオロ心配しておられて……」
驚くべきは、こうした後遺症に悩まされているのはコロナ重症者だけではないということだ。
「うちのクリニックに来られるのは、むしろ軽症や無症状だった方。とくに3~4月の第1波のとき、多少の熱や咳は出たがPCR検査の条件を満たしていなかったので受けられなかった方などですね。最近では、家族が感染したので自分も検査をしたら陽性だったが、無症状だった方。そういう人たちに後遺症が出るケースが多い」
気になるのは、コロナ後遺症を訴えるのは、男性より女性のほうが多い点だ。コロナ後遺症の研究が進んでいるイギリスの大学、キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームが約4,200人の患者を対象に行った調査でも、後遺症があったのは女性が約6割に対して男性が約4割と、女性のほうが1.5倍多いという結果だった。ヒラハタクリニックのデータでも、男性75人に対して、女性106人と、近い値が出ている。
「なぜ女性が多いのか、はっきりしたことはわかっていません。いくつか仮説がありますが、女性のほうが自分の免疫で自分の体を攻撃してしまう“自己免疫疾患”が多いことも関係しているのではと言われています。つまり、人間の体はウイルスなどの異物が入ると、免疫で攻撃しますが、免疫暴走を起こすと、正常な細胞まで攻撃してしまう。コロナ後遺症も、そうした免疫暴走の一つかもしれません」
もう一つの特徴は、高齢者より働き盛りの世代に多いこと。ヒラハタクリニックのデータでは、40代が60人(うち女性は34人)と最も多く、続いて30代の47人(同26人)、20代の30人(同16人)。50代の24人(同14人)と続く。
さまざまな症状を有するコロナ後遺症だが、体に異変を感じたらどうすればいいのか。
「早めに医師に相談することです。ただし問題なのは、コロナ後遺症に理解ある医師が少ないこと。うちに来た患者さんの中には、『運動すれば倦怠感は治る』と言われ、運動したらそのあと何日間も動けなくなってしまった方もいます。そうなると、ますます気分が落ち込んでいく。最近では、少しずつですが理解ある医師も出始めているので見極めが必要です」
大事なのは、倦怠感が強い場合は無理して動かないことだ。
「コロナ後遺症が疑われる人の中には、社会生活がまともにできないほど倦怠感の強い“慢性疲労症候群”に近い状態の方がいます。そういう方は、仕事はできるだけリモートワークにしてもらう。通勤する必要があるときには電車が混んでいる時間を避けて座れるよう時差通勤をする。重い荷物は持たない。必要であれば、会社にそうした配慮を求める診断書を、私は書いています」
「女性自身」2020年12月22日号 掲載