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正規と非正規の差別はやめて、同じ仕事をしている限り、同じ賃金を保障しよう。そんな理念から導入される制度が大量解雇を生む可能性が……。

 

約8万4,000人ーー。2月2日、厚生労働省は、新型コロナウイルスの影響による解雇や雇い止めを受けた労働者の総数を発表した。とりわけ気がかりなのは女性が8割を占めているといわれる非正規労働者(パートや契約社員や派遣社員など)で、仕事を失った人が4万人を突破したこと。

 

しかし、それさえも、氷山の一角だと語るのは、労働問題に詳しいNPO法人POSSE代表の今野晴貴さんだ。

 

「厚生労働省が公表した人数は、全国のハローワークが把握しているものだけです。非正規労働者は派遣切りや一方的な解雇により泣き寝入りしているケースが多く、発表よりも2〜3倍の女性非正規労働者が職を失ったと考えています。野村総合研究所の推計では、パートやアルバイトの女性で、仕事が減らされたのに休業手当が一切支払われていない“隠れ失業者”を加えると、実質的な女性の失業者数は昨年12月時点で162万人に上ることが明らかになっています」

 

女性の非正規労働者は、景気によって雇用者数が大きく増減させられる“雇用の調整弁”にされてきた。コロナ禍が本格的になりつつあった昨年4月は94万人も激減。その後、徐々に急拡大し、Go To キャンペーンの停止などもあった12月には、減少に転じている。

 

今後さらに、パートや契約社員などの解雇や雇い止めが加速する懸念があるという。

 

「今年4月から、中小企業で『同一労働同一賃金』が始まります。日本の企業の99.7%を占める中小企業は、このコロナ禍で厳しい経営状況にあり、新しい法律が適用される前に、解雇や雇い止めに走る経営者が出てくることが危惧されます」(今野さん)

 

そもそも「同一労働同一賃金」とはなんなのか?

 

「正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁じ、同一の待遇を求めるものです。パートタイム・有期雇用労働法で義務づけられていて、大企業では昨年4月から施行されています」

 

そう解説してくれるのは、労働問題を専門に扱っている東京法律事務所の笹山尚人弁護士。

 

資本金が一定以下か、常時使用する労働者数が「小売業」なら50人以下、「サービス・卸売業」なら100人以下、その他業種なら300人以下の企業が“中小企業”と定義されている。

 

「4月からは、これらの中小企業でも不合理な待遇差などが禁止されるのです」(笹山さん)

 

禁じられる不合理な待遇差とはどういうものか?

 

「’20年10月に3件の最高裁判決があり、住居手当や扶養手当、皆勤手当などその趣旨が正規非正規関係ないことがハッキリしている手当などに格差を設けるのは違法と判断されました。一方で、基本給やボーナス、退職金は、正規と非正規で制度設計が異なるために職務や配置などに応じた格差は認められうる。非正規への不支給や格差が違法になる場合もあるとされましたが、それは職務などから不合理といえる場合という解釈です」

 

新たに、コロナ禍で問題になっている待遇差は、テレワークに関するものだと、今野さんが話す。

 

「契約や派遣社員の方から、“テレワークをさせてもらえない”という相談が増えています。同じ部屋の正社員がテレワークに移行しているのにもかかわらず、出勤を命じられ、正社員が在宅でできない仕事を代わることを提示されているというのです。4月からはこのような待遇差はより明白に違法となり、裁判になれば会社側が損害賠償を払うことになる可能性もあります」

 

非正規労働者には、格差是正の第一歩になるはずの同一労働同一賃金だが、こんな懸念が……。

 

「通勤手当や皆勤手当なども非正規労働者に支払うべきことが明白になるため、負担が大きく中小企業にのしかかります。そこで法律が適用される前に非正規労働者を切ってしまおうと考える中小企業の経営者がいてもおかしくありません」(今野さん)

 

特に懸念されるのが、多くの非正規労働者の契約の更新月であり、“同一労働同一賃金”が中小企業に拡大する4月直前の解雇や雇い止めだ。昨年以上となれば、その数は100万人を超える恐れもある。

 

あなたや夫が正社員だからといって、同一労働同一賃金の導入は無関係ではない。

 

「正社員の待遇を下げることで、格差の是正をする企業も増えていくかもしれません。実際、日本郵政グループは、’18年に一部の正社員の住居手当を廃止するという“禁じ手”を行っています。これで5,000人の社員が、借家なら毎月最大2万7,000円出ていた住宅手当が消えたのです」(今野さん)

 

もちろん、正規労働者と非正規労働者の格差是正は必要だ。だが、そのための法律をきっかけにした解雇や雇い止め、待遇の引き下げがあってはならないのだ。

 

「女性自身」2021年2月23日号 掲載

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