「コロナのような事態には憲法に緊急事態条項がないと対応できない」
政府や自民党関係者のそんな合言葉とともに、にわかに加速し始めた改憲の流れ。だが、これはまったくの嘘っぱちで、卑怯な責任転嫁にすぎない。憲法学者で東京都立大学教授の木村草太さんに聞いた。
■強権を発動しても、どうせやるのはアベノマスク
「例えば、アメリカ憲法では、大統領は原則として議会を招集する権限を持ちませんが、緊急時には議会を招集できるとしています。一方、日本国憲法は元々、内閣の国会召集権を認めていますので、緊急時に首相は国会を召集し、法案を提出して国会の議決を取ることができる。緊急事態に対応できる権限は、現行憲法でも、すでにある程度与えられているんです」
木村さんはそう語る。そもそも、政府は自らに与えられた権限を適切に行使してこなかった。東京五輪の実施にこだわって感染拡大下でも入国制限をなかなか行わなかったし、検査体制の拡充やワクチン確保も後手後手になっている。臨時国会の召集もなかなか行わず、防疫のための法律の整備も遅々として進まなかった。
むしろ、憲法に“緊急事態条項”があった場合の方が、“コロナ失政”はさらに増えていた可能性が高いという。
「たとえば、昨年4月の全国一律の一斉休校は、丁寧な手続きを欠いた独断措置で、いい結果は生まず、現場には混乱を呼びました。また、アベノマスクも安倍官邸の独断措置でした。こうした内閣の独断で行われた政策によいものはあったでしょうか」
自民党の憲法草案では、緊急時に内閣は法律と同じ効力のある強力な政令を出せるようになる。
「緊急事態条項が創設されたとしたら、政府の場当たり的で、効果のない対応はますます頻発する可能性が高いというのが、昨年立証されたと思います」