南米の小国・ガイアナ共和国。霧に覆われた熱帯ジャングルを歩くと、おたまじゃくしからカエルに成長し、そして死ぬまで、ブロメリアの葉のすきまで過ごすゴールデンフロッグを発見!
『世界ふしぎ発見!』(TBS系)でミステリーハンターを務める篠原かをりさん(26)は、感嘆する。
「井の中の蛙、大海を知らずという言葉が日本にはありますけど、別にここをカエルが選んだのであれば、大海を知る必要は必ずしもないのではないかと思って─。小さな葉っぱの間で命をつなぐなんて、発想が自由ですよね」
同番組のロケを筆頭に、国内外の秘境を、生き物との出合いを求めてフィールドワーク。コスタリカでは生きたシロアリの幼虫を食し、希少なプラチナコガネを発見したときは“いろいろあった人生だけど、OKだった”と落涙。
こうした独特の感性で生きものを捉え、『恋する昆虫図鑑』(文藝春秋)や『ネズミのおしえ』(徳間書店)など数々の本を出版しているかをりさん。ついた異名は「女ムツゴロウ」だが、偏愛ぶりを見る限り、それ以上かも。これまでもゴキブリ、爬虫類など400匹以上のペットを飼育。標本のための採取、つい持ち帰ったカマキリ、そのカマキリのエサとなるガの幼虫を含めれば、数千、数万種類にのぼる生きものを愛してきたのだ。
「生きもの好きは生まれてからのことなので、なぜ好きなのか、その理由はわかりません。1歳くらいのときの写真でもヒヨコを手に持っていたし、水たまりがあれば全力で駆け寄って、虫がわいていないか探していました。
ペットショップではその場から動きません。トイレに行くタイミングで連れ帰らされるので、ずっと我慢して漏らしてしまったこともありました。
さすがに友人から預かったアリが脱走して、部屋中がアリだらけになったときは戸惑いましたが(笑)」
生きものへの愛情は並々ならないが、じつはヒトは苦手で、極度の人見知り。小・中・高時代はほとんど友達がいなかった。大人になって「大学では仲間もできた」とは言うものの、今年3月、大学院卒業式の日は、
「すごく高いおすしを食べに行って、プリクラで写真を撮って、そして最後はカラオケに─。でも、その全行程が一人だったことを両親が知ると、さすがに不憫がられました。虫好きで、ヒトとの距離感がつかめないまま26年間放置していたら、こんな仕上がりになってしまったんですね」
こう笑うが、けっして自嘲気味ではない。むしろ“ヒトとちょっと変わっていてもOK”だと思っている。
「規律や礼儀に厳しい学校では、私は変わり者で異物みたいな存在でした。でも、どんなときも両親が私を認めてくれたし、虫がいれば幸せ。人から嫌われる虫だって、知れば知るほど魅力的なんですよ。
生物は、同じ遺伝子ばかりだと不測の事態のときに弱い。少し別の遺伝子を持った個体がいることで、種は守られます。だから私のような異物が入って多様性があったほうが、種の繁栄につながるのかもしれません」
透明のプラスチックの飼育箱にかをりさんが手を入れると、親指の頭ほどの大きさのクモが、黒い8本の足を器用に動かしながら、指から手の甲へと伝っていく。
その姿を愛おしそうに眺め、
「まだ飼い始めたばかりのタランチュラ。もう少し大きくなると個体の特徴が出てくるので、それから名前をつけようと思っているんです」
今年、慶應大学の大学院を修了したかをりさんは、あらたに日本大学芸術学部の大学院に通い、動物文学の研究を始めている。学校に通いながら、今後も作家業、そしてテレビ・レポーター業を並行するつもりだ。
「大学時代に広告代理店でインターンを経験して、一般企業で働く適性がないことがわかりましたから、就職活動はしませんでした。それでも10年後を考えると怖くなるので、少しずつ社会になじんでいこうと、父の会社で働き始めました。
先日もある大手企業の新人研修に参加させてもらったんですが『ペアになって、相手の目を見てハッピー、ラッキーと言ってください』と指示されて、自分の感情のスイッチを切って頑張ってチャレンジしました」
やっぱりヒトとの距離感のつかみ方は得意ではないし、気恥ずかしさもある。でも、距離を縮めてみる努力はしてみる。
そんなかをりさんを両親はやさしく見守っている。
「就職して安定した生活をしても、好きな仕事じゃないと後悔しますから。それにうちは主人も変わり者ですから、遺伝子が受け継がれているのでしょう」(母・裕子さん)
その一風変わった父親が始めた会社のドリアン農園は、今年でまる4年。
「夏か秋には初出荷できるまでに育ったので、娘にも手伝ってもらいたいです。娘と一緒に仕事できるなんて、こんなうれしいことはありません」(邦夫さん)
ヒト科の突然変異で誕生した「篠原かをり」種の成長過程は、今後も要観察だ。
「女性自身」2021年6月1日号 掲載