「ずっと美魔女が苦手だったんです。年を重ねても、努力とお金の力で美を追求する彼女たち。『いい年してきれいになりたいって言っちゃって』とか、『結婚して子どももいるのにわきまえてない』とか思っていました。若い女の人のほうが、価値があるという“男の物差し”が内在化していて、それに対して疑問を持っていなかったんですね」
そう語るのは、雑誌『美ST』で「それゆけ!私立美魔女学院」を連載しているコラムニストのジェーン・スーさん(48)だ。
「でも、自分が40代後半を迎えたころ、そんな物差しが自分自身をすごく傷つけるものだと気づいたんです。そして、男の物差しをはねのけて、自分のために美を追求する美魔女たちを、本当にかっこいいと思うようになりました。だから、私も『そんな物差しに構ってらんねぇ。やるぞ』って(笑)」
そんな思いを込めて、「美魔女学院」の連載をまとめた本のタイトルは『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)とつけた。
「『きれいになりたい』と言うほどの、ほがらかさと覚悟はまだないんですけど、そんな“気がしてきた”という感じ。私ぐらいの年代の女性だとそういうふうに思っている人も多いんじゃないかなと、希望的観測を込めました。実際にわかると言ってくれる人も多くて」
2月に出版された書籍は、たちまち重版となっている。
美魔女に象徴されるように、女性の美のあり方は、押しつけがましい一面的なものから、自由で多様なものになってきたという。
「私が20代だった’90年代は、きれいとか、かわいいの幅がすごく狭かったんです。海外でも日本でもスタイルがいいといえば細い。かわいいといったら背が小さいという意味でした。でも今は『ラ・ファーファ』(文友舎)というプラスサイズの女性ファッション誌ができたり、『H&M』の店内にあるポスターのモデルが体形、人種、年齢など多様になったりしています。だから、いまの若いコたちは『どんな人も美しいんだな』という価値観で育ってきていると思うので、うらやましいですね」
(取材・文:インタビューマン山下)
【PROFILE】
ジェーン・スー
’73年、東京生まれの日本人。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」などのパーソナリティを務める