――2022年の日本を揺るがせた統一教会問題。国会議員との癒着、生活を壊す高額献金、2世の窮状……。教団の抱える問題を長年追及してきた2人がこれまでの戦いを語った。
鈴木エイトさん(以下・鈴木):旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の被害者たちが声を上げたことで議論が進んだ救済法が、成立しました。マインドコントロール下での献金や、2世問題などへの救済で疑問の声もありますが、第一歩を踏み出したといえるかもしれません。
紀藤正樹弁護士(以下・紀藤):あくまで今回の新法は、消費者庁が所管する霊感商法などの金銭被害の延長線上のもの。旧統一教会の問題は、財務省や経産省が所管する海外送金、厚労省が所管する児童虐待問題、外務省が所管する海外での統一教会信者の活動や被害実態の把握など、各省にまたがり多岐にわたります。
鈴木:今後は内閣府などに特命大臣を置くことが求められますね。
紀藤:だから、まだ第1ステージ。これから第2ステージが始まるんです。
――安倍晋三元首相の殺害事件に端を発し、統一教会が信者から高額献金を集めていた問題や、政治家との癒着が表面化。社会問題となったことで、ついには被害者の救済法が12月10日に成立した。その夜、長年、教団を追及してきた紀藤正樹弁護士とジャーナリストの鈴木エイトさんが対談し、これまでの戦いを語り合った。
紀藤:人権問題に関わっていきたいと思って弁護士になりました。それで入った法律事務所の先輩が、統一教会問題を扱っていたんです。教団の知識を得たころ、たまたま私が学生時代に家庭教師をしていた女性が、統一教会系の団体から勧誘を受け、知らずに入りかけていたことがわかって、説得して入会をやめさせたりしました。
鈴木:僕は20年ほど前、街頭で偽装勧誘しているのを見かけたのがきっかけです。統一教会は、街頭で声をかけた人を、正体を隠して偽装施設(ビデオセンター)に連れていき、信者にしようとする。施設に連れていかれた人に、どういう団体の教化施設か教え、「やめたい」という人を助け出していました。教団から“指名手配”されていて、施設に僕の顔写真が貼られているそうです。先日、現役の2世のコと会ったとき「うちの施設にも写真が貼ってありました。会えてうれしいです」って(笑)。紀藤さんは僕以上に教団では有名人。危険な目にも遭ったのでは?
紀藤:統一教会を1980年代から追及してきた弁護士が第1世代です。実際に身の危険を感じたり、大変な妨害もあったようです。なかには偽の出前を繰り返された先輩弁護士もいました。僕は1990年に弁護士登録した第2世代。第1世代ほどの脅しはなかったけど、嫌がらせ電話なんかはあった。今よりもアクティブな信者は多かったし、情報網は、あらゆるところに張り巡らされていました。あるとき、一般のメディアの取材を受けたら、じつは、取材に来たスタッフの一人が統一教会の信者だったということもありました。そういった意味で、メディアの取材にも完全には信用できない。エイト君も、スパイかもしれないって……。
鈴木:それは、さすがに(笑)。
紀藤:冗談、冗談。でも、長い期間の関係性があるから信頼しているけど、やっぱりここに至るまでは時間がかかりました。
【PROFILE】
紀藤正樹
リンク総合法律事務所所長。統一教会の合同結婚式や霊感商法など、カルト宗教や消費者問題を追及してきた。『カルト宗教』(アスコム)など著書多数
鈴木エイト
ジャーナリスト。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」主筆。近著に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)がある