「増税メガネ」の汚名返上か? 「経済成長の成果である税収増などの国民に適切に還元する」──岸田文雄首相が9月25日に発表した「新たな経済対策」。ネット上などで「増税メガネ」と揶揄されている岸田首相にとって起死回生の「減税政策」かとおもいきや……。
「『新しい経済対策』は企業関連税制が中心で、減税に関係する項目では『賃上げ税制の減税制度』(企業が前年度より従業員の給与支給額の増額分の一部を法人税から税額控除できる)、国内投資促進や特許などの所得に対する減税制度の創設、ストックオプションの減税措置の充実など、金持ちや企業などは『減税』となるが、われわれ庶民にとってなんら効果はないでしょう」
そう語るのは経済アナリストの森永卓郎さん。
「そもそも『新しい経済対策』の規模について、自民党の世耕弘成参議院幹事長は19日の会見で『少なくとも15兆円、できれば20兆円ぐらいは必要になる』と述べていますが、15兆円といえば、ちょうど消費税を5%に下げられる予算規模。今回の『経済対策』と『消費税5%』はどっちがいいか国民に聞いたら、圧倒的に消費税減税を選ぶ人が多いと私は思うんです」(森永さん・以下同)
たしかに、シンプルに消費税を減税するほうがわかりやすくて公平だ。
「しかも、コロナ対策で、世界90カ国以上の国が景気対策として消費税減税を実施。物価高対策や実質賃金の上昇など減税の効果が非常に大きいことはわかっているんです」
岸田首相には「減税」という発想がそもそもないと森永さんはこう言う。
「わかりやすくいえば、岸田首相は、財務省官僚の『ご説明攻撃』にまんまと取り込まれてしまったのです」
詳しく解説してもらおう。
「財務省は、旧大蔵省の時代から“予算における支出と収入は一会計年度で一致すべき”という財政均衡主義。つまり税収の範囲内で歳出を収めることを金科玉条としています。
そんな財務官僚が、岸田首相の最側近として、朝から晩まで“ご説明”と称して『財政を健全化しなければ日本は大変なことになる』と言い続けているのです。
もしかしたら『日本の財政を健全化できるのは、岸田首相、あなたしかいません』くらいは言っているかもしれません」
そんな財務官僚に籠絡されてしまった?
「岸田首相が取り込まれたのが明らかなのは、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字は80兆円でしたが、今年度は10兆円まで赤字を減らしました。財務省のシナリオ通りに、岸田首相はたった3年間で70兆円も財政を絞った。歴代でも最大の財政緊縮をした首相であることです」
歳入と歳出を均衡させる財政均衡主義──そんなに悪いことではないと思うが?
「自国通貨を持っている国は財政均衡に縛られずに、国債を発行するなど、より柔軟な財政政策をとることができます。景気の悪いときは支出を切り詰めることはしないのが普通です。財政赤字は、ある程度拡大させても大丈夫なのは、3年前に80兆円の赤字を出しても、高インフレも為替や国債の暴落起きなかったことが証明しています。
ところが、この事実を財務省は『不都合な事実』として隠蔽。いまだにプライマリーバランスで黒字化を目標しているのです」
なぜ、そこまで「減税」をかたくなに拒んでいるの?
「財務省にとって増税は『勝ち』で、減税は『負け』。たとえば、消費税増税をした財務官僚は、その後、レジェンドになります。財務省では増税した人は出世したり、いい天下り先を割り当てられたりする、どこにも書いていない“省内ルール”があるからです。
減税という言葉を岸田首相の耳にいれるわけがないのです」
その一方で、補助金などのばらまきは行われているが……?
「財務省にとって業界団体に補助金を出すのは、いずれ天下り先という利権につながるんですね。たとえば、高騰するガソリン代に対して『トリガー条項』を発動して、レギュラーガソリン1リットルあたり臨時増税分(25.1円)の課税をとめて価格を下げればいい。ところが、財務省にとっては税収が減る、利権も増えない。だから、補助金をばらまくのです。
ガソリンについても、補助金を出すのと、余計な税金を取るのを止めるのとどっちがいいかというと、国民の多くは『減税』したほうがいいと思うはずですが」
なぜ、岸田首相は、財務省の言いなりになっているのだろうか?
「もともと、岸田首相の宏池会は、大蔵省(現財務省)の出身者が多い。また、岸田首相の親族にも大蔵省の関係者が多いことも関係しているでしょう。また一部では、岸田首相は2浪までしたが東京大学に入れなかったこともあり『東大コンプレックス』があると言われています。
一方、財務官僚は、東大のなかでももっとも優秀な東大法学部出身が多い。そんな学歴の高い人たちが、自分にひれ伏して『日本の将来を救うのはあなただ』と言われたら岸田首相も舞い上がってしまうでしょう。
昨年5月にイギリスの金融街シティで、岸田首相は『私は、最近の総理大臣の中では、最も経済や、あるいは金融の実態に精通した人間だ』といって講演をしましたが、この思い込みこそ財務省に取り込まれた証だと思っています」
「増税メガネ」──このあだ名が払拭されることはなさそうだ。しかし、そのお眼鏡によって、国民の生活がズタズタにされてしまうことは間違いなさそうだ。