「保険に加入しているのに該当番号がなく“無保険”にされたり、1割負担の方が3割負担で登録されていて、後から返金に追われるケースもあります。そもそも、体調不良のときは人相も変わることもあり、顔認証が通らないケースもいまだあります」(本並さん)
そう明かすのは、マイナ関連のトラブルを調査している、全国保険医団体連合会(以下、保団連)の事務局次長・本並省吾さんだ。
一向にトラブルが減らないなか、2024年12月に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した“マイナ保険証”へ移行すると決定した。一方、アンケートに回答した医療機関の約8割が〈既存の保険証は残すべき〉と回答している。
「マイナ保険証を推進したいなら、保険証廃止は延期し、エラーが出ないようシステムを停止して改修・整備すべきです」(本並さん)
ところが厚労省は、なりふりかまわず利用率を上げるのに必死だ。今年1月、厚労省は全国890の公立・公的病院に対し、11月までにマイナ保険証の利用率50%を達成するよう、促進計画の提出を求めている。
厚労省の促進計画のなかには、〈マイナ保険証の専用窓口を設ける〉〈窓口での声かけを「保険証をお持ちですか?」ではなく、「マイナ保険証はお持ちですか?」に変える〉という、あきれたものまで……。
「そんな声かけをすれば、マイナ保険証がないと保険診療が受けられないという誤解を招きかねません」(保団連会長・竹田智雄さん)
公立・公的病院も加盟する日本自治体労働組合総連合の板山裕樹さんも、こう明かす。
「ある市立病院の事務長は、〈スペースも人員も足りないのにマイナ保険証の専用窓口を設置するのは難しい。既存の保険証をお持ちの患者さんを犠牲にしないと成り立たない〉と頭を抱えています」
さらに、コロナやインフルエンザを診る発熱外来にも影響が。
「公立病院などは、建物の外にプレハブを設けて発熱外来を行っているところもあります。そこではマイナ保険証のカードリーダーが使用できないため、いったん実費負担になってしまうケースもあるようです」(本並さん)
そもそも、当初は“任意”だったはずのマイナ保険証。政府は、トラブルだらけのマイナ保険証をゴリ押しするため、2023年度の補正予算に887億円を計上。11月までに利用率50%を達成できた医療機関には、1件あたり150円のインセンティブを設けるという。
「このまま紙の保険証が廃止されると、保険に加入しているのに保険診療が受けられない事態になりかねません」(本並さん)
デジタル庁を名乗るなら、まずシステムの不具合を直してから推進してほしいものだ。