1ドル=150円と160円の相場を乱高下する為替市場。投機筋の円売りと政府・日銀による為替介入の攻防が激化しているようだ。「悪い円安」とされる34年ぶりの水準だが、実感が沸かない。フィクションの世界観で考察するとーー。
悪の科学者が差し向けた巨大ロボットが、埼玉・春日部を破壊する。無策の政府は海外市場の信用を失い、「軒並み円が売られ…」とアナウンサーが騒々しい。
アニメ「クレヨンしんちゃん」の劇場版「爆発!温泉わくわく大決戦」(1999年)の一シーンだ。この戦時下の為替レートは1ドル=145円だった。実際は5月7日現在154円台と、さらに円安水準だ。現実はアニメより奇なり、と言うべきか。
■為替介入の7倍
1ドル=150円台は漫画「サラリーマン金太郎」において、日米通貨戦争の攻防ラインだ。「マネーウォーズ編」(2005~06年)に描かれている。
日本滅亡を企む大物投資家ジョー・ロスに対し、ファンドマネージャーになった主人公の矢島金太郎が立ち向かう。日本国債の大規模な売り浴びせで円相場は1ドル=180円まで暴落。金太郎はアラブ諸国から集めたオイルマネー5千億ドルを円買いに突っ込む。その直後のレートが1ドル=157円だ。やがて150円を割り込む円高に振れ、国難を救った。
現実の政府・日銀による為替介入は4月29日が5兆円、5月2日が3兆円規模と報道されている。一介のサラリーマンである金太郎の投機は、国策をはるかに凌駕する。連載当時の実際のレート(2005年度末/1ドル=117円47銭)で比べると、7倍規模だ。
■通貨の番人顔負け
一級のスナイパーも、この国の財政破綻を水面下で阻んでいた。ハードボイルド劇画の金字塔「ゴルゴ13」。第556話「地獄のダンサー」(2015年)にある。
政府・日銀はデフレ退治で国債を大量に買い入れ、発行残高の3割を保有しているという現実さながらの設定だ。「日銀に喧嘩を売るゴジラは現れませんよ」と侮る日本に対し、ヘッジファンドの女性マネージャーは国債を売り浴びせる。デューク・東郷の銃弾が、その野望をくじいた。
ちなみに、現実の日銀が保有する国債は5割を超えた。含み損は利上げ次第で自己資本を超え、日銀が債務超過に陥る恐れすらある。やはり、現実は奇なりだ。
東郷は第328話「オフサイド・トラップ」(1994年)で、円急騰も食い止めていた。バブル崩壊後のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に反し、1ドル=100円をうかがうほど円高が加速。米政府の陰謀と気付いた大蔵官僚の依頼で、東郷は大物投資家ランドルフを狙撃する。通貨の番人顔負けの仕事だった。
■警察官が副業
ゴルゴ13は変動相場制に移行前の1968年から連載を始めただけに、円相場の変遷に詳しい。双肩を担うのは、コミックス201巻で完結した「こちら葛飾区亀有公園前派出所」だろう。
第500話「道楽党起つ!!」は1985年のプラザ合意(ドル高是正)後、1ドル=220円から160円に急騰したバブル期にさかのぼる。それでも輸入価格はなお高く、海外製のミニカーを格安で入手するため、主人公の両津勘吉自ら参院選に立候補する。
第1809話「がんばれ秋葉原店」は1ドル121円台まで円安が加速し、インバウンド(訪日客)が急増した2014年が舞台。「超神田寿司」秋葉原店の立て直しを任された両津は、海外の富裕層向けに1人5万円で「一日寿司職人の体験サービス」を打ち出す。
1ドル=160円や急速な円安進行は、警察官が政治家を目指したり、寿司職人になったりする相場だった。公務員の副業は厳禁。この物語はフィクションです。
(文:笹川賢一)