オークション形式で約1兆円の支援が見込まれる島根原発3号機(写真:共同通信) 画像を見る

酷暑の夏、「電気代が高騰して大変」という家庭も多いだろう。

 

ところが経済産業省は、さらに電気代が上がりかねない“新制度”の導入をもくろんでいる。

 

朝日新聞の報道によると、原発新設の費用を電気料金に“上乗せ”して国民から徴収しようというもの。イギリスで考案された原発支援策“RABモデル”を参考にしているという。

 

「これは“原発延命”のための制度です。原発建設コストが高騰しているので、建設が決まった段階から電気代に上乗せして国民に払わせようという、いわば“原発推進税”のようなものです」

 

そう解説するのは、龍谷大学政策学部教授で原子力市民委員会座長の大島堅一さん。

 

資材の高騰や、安全対策のための工事費用が膨れ上がり、原発の建設コストは急騰している。

 

「現在、イギリスで建設中のヒンクリーポイント・Cという原発の建設費用は、2016年当時で196億ポンド(約3兆1千400億円)と試算されていましたが、その後、工事の遅れもあってどんどん建設費が高騰。今年初めには310億~340億ポンド(約5.8兆~6.4兆円)と、約2倍に膨れ上がりました」(大島さん)

 

こうした経緯から、資金集めが困難になったイギリスは、RABモデルを導入しようと数年前から議論を進めてきた。

 

「しかし、国民から反発が起こり、導入は厳しくなっています」(大島さん)

 

イギリスでも頓挫しかけているRABモデル導入を、日本が検討するのには、こんなワケがある。

 

「2011年に福島第一原発事故が起き、既設原発を再稼働するためには、地震と津波対策を盛り込んだ“新規制基準”への適合工事が必要になりました。

 

原発1基あたり2千億円超が必要で、原子力事業者11社の合計で、すでに6兆円超えに。さらに上振れする可能性も大きいため、金融機関もこれ以上融資できなくなっているのです」(大島さん)

 

そうなると、既設原発も動かせず、新設もできない。だからこそ、「安定した財源が必要」と、経済産業省の関係者もこう明かす。

 

「原発を新増設するとなると、建設から廃炉まで総事業期間が100年かかります。この間の費用変動リスクも考慮すると、長期的に安定した支援策が必要。そこで、RABモデルのような仕組みの導入を検討しているんです」

 

つまり、“原発百年安心”プランを国民に担わせようというわけだ。

 

すでに、政府が2024年度内をめどにまとめる「エネルギー基本計画」にも盛り込まれる予定だという。

 

「本来は、国会での審議が必要ですが、電気代への上乗せなら、事実上の“増税”でも、経産省の一存で決定できます」(大島さん、以下同)

 

ところが、こうしたありえない国民負担は、すでに先行して始まっているという。

 

「経済産業省は、“長期脱炭素電源オークション”(以下、オークション)という仕組みをつくり、今年から、脱炭素を進める電力事業者にオークション形式で資金を支援し始めています。

 

しかし、“脱炭素”とは名ばかりで、落札した電源の6割は火力発電です。また原子力も対象になりましたので、結局は火力と原子力の生き残り支援制度です」

 

昨年度は、このオークションに参加した島根原発3号機(中国電力)も落札。今後20年間で推定約1兆円の工事費用の“支援”が見込まれている。 「こうした支援金も電気代に上乗せされて私たちが支払うことに」

 

そのうえ、100年の負担を強いられる前出の“RABモデル”が導入されると、電気料金の負担は、いくら増えるのか。大島さんの助言を基に編集部で試算した。

 

イギリスで建設中の原発、ヒンクリーポイント・C(出力計320万kW級/約3基分)の建設費用が約5.8兆~6.4兆円なので、1基あたりの新設費用を2兆円に設定。東京電力管内に住む人口約4千400万人で負担すると仮定した場合、1人あたりの負担増は4万5千455円に。これを、建設期間の17年間で支払うとすると、4人家族の平均的な電気消費量(260kWh)で計算した場合、1世帯あたりの電気料金は、年間3千565円増に。

 

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