「稽古場でも草彅さんの演技は圧倒的なものがあって、まるでエネルギーの塊のようです。僕は圧倒されてしまうし、周りからは『負けるな』って言われるぐらいなんです(笑)」
そう語るのは、12月6日から東京・日本青年館ホールにて上演される舞台『ヴェニスの商人』に友情に厚く慈悲深い商人・アントーニオ役で出演する忍成修吾(43)。忍成演じるアントーニオに「金を返さなかったら、あんたの体からきっかり1ポンド切り取らせてもらおうか」と迫る冷徹な金貸しの主役・シャイロックを草彅剛(50)が演じる。
癖の強い役をこなす役者として定評のある忍成が善人のアントーニオを、稀代の悪者・シャイロックを草彅がどう演じるのかが注目される同作。二人の共演は09年のドラマ『任侠ヘルパー』(フジテレビ系)以来だという。
「今回、最初のご挨拶で『実は任侠ヘルパーで……』と切り出すと、『ああ、おばあちゃんをイジメていた子ね』と笑顔で言ってくれました。今回もですが、草彅さんは役に入り込む方なので僕の方からは気軽に声をかけることができないんです。でもふっと役が解けた瞬間に『元気?』『調子はどう?』って明るい感じで話しかけてくれるので、とてもありがたいですね。
舞台では対峙するシーンが多いんですけど、シャイロックを演じているときの草彅さんは顔つきも変わっていますし、なにしろパワーが本当にすごい。感性がとても強くて、そのうえキャリアと知識が混ざったものが全面に放出されている感じがします。いわゆる憑依型のイメージです」
演出を手掛けるのは、第21回読売演劇大賞・最優秀演出賞に輝き、現代演劇界で最も実力のある演出家の一人と言われる森新太郎氏だ。忍成は森作品に3度目の出演となる。
「舞台の一番の見どころは草彅さんと森さんがタッグを組んだこと。これまでにない、初めて見るシャイロック、アントーニオがめちゃくちゃ面白いです。森さんの演出は役者のポテンシャルを最大限に引き出して、それを客席まで届けてくれるんです。今回もお客さんを巻き込むような展開になっていますね。きっと舞台を観ているだけで疲れますが、心地いい疲れですし、お客さんもいつの間にか前のめりになっていると思います。一緒に森さんが作るシェイクスピアの世界を体感しましょう」
『ヴェニスの商人』は友情と絆、愛情と正義という人間の普遍的なテーマを描いているが、忍成も私生活では22年に一般女性と結婚したことを発表。昨年から自身のインスタグラムで2歳の愛息子の写真を頻繁に投稿するようになり、“いいお父さんぶり”が話題となっている。
「成長記録として、ほぼ毎日息子を撮影しています。ほとんど妻が撮っていますが(笑)。この前はポケットに手を入れてポーズを取っていたんです。本当あっという間に大きくなりますね。最近は単語も少し話せるようになりました。英語のYouTubeを見せているので僕は『パパ』とか『ダディ』って呼ばれています。
両親にとっては久しぶりにできた孫です。姉が2人いるのですが、初孫が生まれたのは20年以上前なので曾孫の感覚に近いかもしれません。端午の節句の時には特注の兜をプレゼントしてくれました。かなり可愛がってくれているので、できるだけ頻繁に会わせてあげたいなと思っています」
家族ができたことで、仕事の取り組み方や俳優としての変化はあったのだろうか。
「自宅にいる時は“子どもファースト”で自分の時間はほとんどないので、早めに家を出て車の中で作業をしたりしています。それから、今まで子役の子とどう接していいかわからなかったんですけど、子どもと話すことが楽になりました。おかげで穏やかな表情や演技を作るのが早くなったと感じています」
99年のドラマ『天国に近い男』(TBS系)で俳優デビューして今年で25年になる忍成。一時は俳優業に行き詰まり、芸能関係以外の仕事に就こうと考えたこともあったという。しかし、今は家族ができて決意を新たにしたそうだ。
「お芝居を続けてきて本当に良かったな、と思います。この作品に参加できたこともすごく光栄に思っています。役者として生きていく道を選んだので、あとはもう腹をくくるしかないですね。まあ、いざダメになったとしても今なら子どもたちのために何でもやれるかな」
そう語る忍成は守るべき妻と子どもへの愛情に満ち溢れた、穏やかな父親の顔をしていた。