「坂本選手は、本当に根っから明るい子。いつ見ても『ガハハハッ』、って感じで笑っている。そんなイメージです。
だから、緊張したり、失敗したり、落ち込んだりするイメージが湧きません。退路を断った最後のオリンピックも、彼女ならきっと笑顔で締めくくってくれると思います」
ミラノ・コルティナ冬季五輪に臨んでいる坂本花織選手(25)についてこう語るのは、神戸市にある「フォトスタジオ八木」の代表・八木善生さんだ。
9日(日本時間、以下同)に実施されたフィギュアスケート団体決勝で、銀メダルを獲得した坂本。優勝候補の一角として、坂本が出場するフィギュアスケート女子シングルのショートプログラムが2月18日に、フリープログラムが20日に行われる。
今季での引退を表明している彼女が人生の節目節目に訪れているのが同写真館だ。窓には成人式と、北京五輪でのメダル獲得のタイミングで撮られた写真の巨大なタペストリーが飾られている。
「彼女のお母さんがお宮参りに来られたときに寄ってくださったのが始まりです。そのあと七五三、成人式、五輪でメダルを取ったときと、人生の節目で来ていただいています」(八木さん、以下同)
■今からは想像できない恥ずかしがり屋時代
常に明るい笑顔を振りまく坂本だが、恥ずかしがり屋な時期もあったようだ。
「七五三のころはまだ人見知りが激しくて、すぐに両親の後ろに隠れてしまうのを、女性カメラマンがなんとかご機嫌をとってやっと撮影できた、そんなこともありました(笑)」
18年に開催された平昌五輪で代表に選ばれ、17歳でオリンピック初出場を果たした坂本。大会後に久しぶりに写真館に現れたという。
「おじいちゃん、おばあちゃんと来られて、2人のために一緒に写真を撮ってほしいということでした。なんでも、おじいちゃんおばあちゃんは都合があって、平昌五輪には行けなかったそうなんです。
そこで出場したときのコスチュームと、五輪代表のユニホームとそれぞれのパターンで、撮影しました。おじいちゃんおばあちゃん思いの、優しいコなんだなと感心しましたね」
次に坂本が写真館に訪れたのは、成人式が開催される予定だった’21年の成人の日。坂本の好きな色の青の振り袖を選んで着てきたという。
「成人式のときはちょうどコロナ禍で、成人式そのものが中止になったんです。でも着物で写真を撮影して、そのあと近所の湊川神社にお参りに行かれました。そのとき大変な騒ぎになったんです。神社でも記念写真を撮影しようとマスクを取ったら、周りの人たちが気がついて。式典が中止になった影響か、成人式の着物を着た同い年の人がたくさんいて、一緒に写真を撮ってくださいと集まってきて……」
写真館の道を挟んだ向かいにある湊川神社には、元警察官である坂本の父親・修一さんが、たびたび訪れていることを自身のXで明かしている。そんな父の祈りが通じたのか、坂本は’22年の北京五輪の女子シングルで銅メダルを獲得。続いて’22年世界選手権では初優勝を果たした。
「『取れました!』って、メダルを持って満面の笑みで来てくれましたね。オリンピック代表のユニホームで撮影したんですが、やはり鍛えているアスリートの脚なんで太もものところなんかは筋肉で張っていて、スラックスがパンパンなんです。一般女性と比べると、どうしても太く見えてしまう。それで私は彼女に提案したんです。
『今は、写真もコンピューターで修整できるから、脚ちょっと細くしよか? そのほうが見栄えがええから』と言うと、きっぱり断られてしまいました。『いやー、いいです、このままで。この足が私の命ですから。この脚があるから、ちゃんとジャンプが跳べるんで』と」
八木さんの提案がまるで“イジリ”のように思えるほど、坂本が“脚が私の命”と笑って言い切るのには理由が。
’18年の平昌五輪に出場して以降、成績が低迷した坂本。そんななか、’20年4月に新型コロナ感染拡大の影響で、坂本が練習で使用していたリンクが閉鎖された。
氷の上を滑れなくなり、坂本が相談したのは所属企業・シスメックスの陸上部。練習に加わり、約2カ月間陸上競技場などで走り込みや体幹など下半身強化のトレーニングに励んだ。こうして逆境を成長の機会に変えた坂本は、スランプを脱していったのだ。
坂本は今回のオリンピックを前にも、同写真館を訪れている。八木さんは、「いちばん最近来たのは、確か昨年の秋ごろでした」と明かし、さらにこう続ける。
「彼女には少し年の離れた2人のお姉さんがいて、ともにお子さんがいらっしゃいます。七五三のタイミングで双方のお姉さん一家が集まって、彼女とお母さんも同行されたんです。お子さんの一人は赤ちゃんでしたね。 お姉さんたちはそれぞれの家族写真を撮った後、一族みんなで写真を撮ることになりました。彼女は赤ちゃんを抱っこしてあげていましたよ」
写真館の一角には、坂本直筆のメッセージが書かれたポストカードが飾られている。
「’20年から毎年のように、自筆で書いたお礼の言葉が添えられたポストカードを送ってくださるんです。“いつも応援してくれてありがとうございます。これからもがんばります”みたいなことが書かれています。練習で忙しいのに、お世話になった人への感謝の気持ちをちゃんと伝える律儀さには感心します」
逆境を乗り越えてきた自らの“脚”と真摯な姿勢で、さらに高く羽ばたくことだろうーー。
画像ページ >【写真あり】八木さんのもとに送られてきた坂本選手の直筆メッセージが書かれたポストカード(他2枚)
