「私はねー、ボクシングに出会ってから、人生観が“380度”変わったんです」──。
唯一無二の言葉で多くの人を笑わせたガッツ石松さん(本名・鈴木有二さん・享年76)。
日本人初のライト級世界王者になった際、両手を挙げてジャンプした歓喜のポーズが「ガッツポーズの元祖」として知られるガッツ石松さんだが、彼の伝説が注目されている。
ガッツ石松さんが、娘の鈴木佑季さんと監修したベストセラー『最驚!ガッツ伝説』(2004年7月発行)を担当した元編集者が語る。
「最初は娘さんとのつながりが先でした。お父さんの家での様子を聞くと、面白い話がいくらでも出てくる。だったら一冊に束ねませんか、と提案したんです。ただ、ガッツさんはすぐに首を縦に振る人ではなかった。一回横に振ってから縦に振る、野球のピッチャーみたいな人でした」
それでも企画が動き出した背景には、父としてのこんな思いがあったという。
「当時、佑季さんはロックバンドのボーカルとして活動していました。“娘が世に出る一助になるなら”という気持ちが見えました。ガッツさんは、絶対に自分からは言わないけれど、娘に翼を作ってあげたかったんだと思います」(元担当編集者、以下同)
新宿の京王プラザホテルに部屋を取り、スタッフと“缶詰め”でネタ出しをした日、ガッツ石松さんはA3の紙いっぱいに小さな文字でびっしりネタを書いて持参した。
「几帳面なんですよ。テレビの印象とは違って、ものすごく細かく考える人でした。
ただ、ガッツさんが考え抜いたネタは、本にはあまり向かなかったんです。いい話だけど笑えない。反射神経で出たガッツさんの言葉の方が圧倒的に面白かったんです」
たとえば……
・ステーキ店で焼き方を聞かれて「ん~、俺が教えんの?」。
・「青いリトマス紙を酸性の水につけるとどうなる?」の質問に、「濡れる」
・クイズ番組で父娘共演。「太陽はどこから昇る?」の問いに、「西だっけ? あれ……南だっけ?」と悩む娘に、父が助言した。「太陽が昇るのは右からだろ」
・パスポートの申請のとき、「性別(SEX)」と書いてある欄に、「週1」と書いた。
「ガッツさんには、瞬間の強さがありました。テレビが切り取った天然だけでは語れない人。一瞬でスパークする。その一瞬を周囲がどう受け止めるかまで読んでいたと思います。ボクサーだから、人の空気を察知する力がすごいんです」
計算では生まれないガッツ石松の迷言・珍言を集めた一冊にする方向で進んだが、本づくりは順風満帆ではなかった。
「初版1万部の企画に対し、社内からは『売れるわけがない』『この手の本を作る経験がない』と慎重論も。だから「余った分は自分が全部買います」とまで言って出版にこぎつけました。
というのも、親しくしていた印刷会社の人が、『現場の一番若い従業員が、ガッツさんの迷言で爆笑していた。絶対に売れる』という話をしてくれて、売れると確信していました」
発売日には、注文の電話が鳴り止まなかった。
『最驚!ガッツ伝説』は40万部を超えるベストセラーに。さらには、第二弾も発売。カッツ石松さんが主演を務めた映画『ガッツ伝説 愛しのピット・ブル』(2006年)も公開された。
・運転手に道を指示して、「そこ、右に左折して」と無茶な指示連発。
・時代劇に出たガッツ、カツラの重さに、「大変だな、江戸時代の人は。毎日こんなの被ってたんだから」
・急ぎのときは、電車の先頭に乗る。
・世界タイトルマッチの解説で挑戦者の心境を聞かれて、「いやぁ~、怖いのが半分、恐ろしいのが半分でしょうね」
そんなガッツさんの伝説がつまった本には、こんな逸話がある。
「ガッツさんが本を出したのは、娘を世に送り出すためと話しましたが、じつは、佑季さんにも強い思いがありました。ガッツさんは、1996年10月の衆院選で落選。借金が残っていたらしいんです。そんな父を助けるためにも、佑季さんは本づくりに向き合ったのです」
本が売れ、講演やイベントの仕事も増えたことでガッツさんも金銭的にも楽になった。また、本が名刺代わりになり、今までただ笑われて終わっていた彼の言動が、“独自の芸”として評価されるようにもなった──。
6月2日に、今でも色あせない数々の伝説を残して、旅立ったガッツ石松さん。
元担当編集者が、最後にこう語る。
「高齢者になったガッツさんの日常を集めた『続・ガッツ伝説』の構想もあったんです。シルバー川柳じゃないけど、老いたガッツさんの身の回りで起こる悲喜こもごもをまとめたいという話はありました。こんなに早くとは。やれる時にやらなきゃいけなかったです……」
真面目で真っ直ぐで、みんながハッピーだったら自分が笑われることはよしとする。でも、人を傷つけまいとする優しさがあった──。だからこそ、彼の言葉はいまも「OK牧場」と、私たちの心を明るく照らしている。
画像ページ >【写真あり】“激ヤセ近影”に心配集まったガッツさんの「最後のインスタ投稿」(他2枚)
