「インドにはいつか抜かれると思っていたのですが、イギリスにも抜かれたのは正直言って衝撃を受けました。これはイギリスがすごいのではなくて、日本経済がダメになったという証拠です」
そう苦言を呈するのは、ABC経済研究所代表でエコノミストの熊野英生氏(59)だ。
国際通貨基金(IMF)などの予測で、名目GDP(国内総生産)で現在4位の日本が、2027年にインド、イギリスに抜かれて「世界6位に転落する」という見通しが報じられた。
IMFは日本の名目GDPについて2026年は4兆3419億ドル(約686兆円)、2027年の予測では4兆4676億ドルになると推計。一方、人口増加が著しいインドの名目GDPは4兆5211億ドル、イギリスは日本よりも人口が少ないのにもかかわらず4兆4889億ドルとなり、日本を追い抜く。
かつて世界2位の経済大国を誇った日本の凋落は、一体なぜ引き起こされたのか。同氏は最大の要因として「円安」を挙げる。
「新型コロナの影響が大きかった2021年頃は、為替レートが1ドル=109円でした。これが今は158円ぐらいになり、円の価値が下がっています。ドル表示で国際比較をするため、為替が3割引きになれば、逆転されてしまう。これが、インドやイギリスに抜かれる一つの大きな要因なのです」(熊野氏、以下同)
日本の通貨の価値が劇的に目減りした背景には、日本銀行の対応の遅れと、歴代政権が続けてきた異次元緩和の負の遺産がある。高市早苗首相(65)が率いる現政権も、その軌道から抜け出せていないと熊野氏は指摘する。
「黒田東彦(はるひこ)前日銀総裁(81)の任期中に、利上げが2年ほど遅れました。黒田さんはアクセルを踏んだものの、ブレーキを踏むことを知らなかった。今の高市首相の政策も、基本的には黒田氏と同じ金融緩和政策を進めています」
黒田氏が2013年から2023年までの10年間の任期中に行った主な政策は、故・安倍晋三元首相(享年67)の経済政策「アベノミクス」の第1の矢として推進された「異次元の金融緩和政策(大規模金融緩和)」だ。
金融緩和政策とは、デフレからの脱却や物価の安定的な上昇を達成するために、市場にお金を回りやすくして景気を刺激することで、「デフレ脱却」と「物価上昇率2%」の目標達成を掲げ、前例のない大胆な手法を相次いで導入した。
そして、高市首相も「責任ある積極財政」を掲げ、巨額の投資を打ち出している。しかし、耳当たりの良いスローガンの裏で、日本経済は着実に蝕まれているという。
「規模を拡大させるのはいいけれども、どうやってブレーキをかけていいかがよく分かっていません。自分自身の政策で円安を起こし、インフレを起こしているという自覚が極めて乏しいんですよ。『責任ある』と言いながらまったく無責任です」
歯止めを失った財政の拡大は、各省庁の予算要求の異常な膨張にも表れている。昨年は122兆円だった予算要求が、今回は143兆円へと膨張した。成長のためと言いつつ、本当に日本を豊かにするための投資なのか、疑問符がつく予算が含まれている。
現在の植田和男日銀総裁(75)は就任後から、円安を止めるために政策金利(基準となる金利)を上げているが、アベノミクスの後遺症は大きいという。
こうした経済政策のツケを払わされるのは、他でもない国民だ。円安による物価高騰は、生活の根幹を直撃している。
「輸入品は円の購買力が下がるから軒並み高くなります。日本の食料自給率は低く、食料の6割は輸入に依存しています。必然的に円の購買力が落ちれば食料品の価格が上がり、国民生活は苦しくなります」
政府は来年春からの消費税減税を打ち出しているが、これも根本的な解決にはならないと熊野氏は語る。
「輸入食材が上がるからインフレが起こる。これは2022年以降続いているインフレの正体です。円安に歯止めがかからなければ、消費税減税も焼け石に水です。国民の生活は逼迫し、食料品が高騰すれば、レジャーや洋服代を削るしかありません。消費マインドは冷え込んだままとなります」
しかも、インフレの波は、特に弱い立場にある人々を直撃する。年金生活者の人たちは、少ない年金では生活が成り立たなくなる。食料品の物価上昇によって生活困窮がより進み、世代間の格差も大きくなると指摘する。
そうこうしているうちに、GDPの順位は下がり続け“先進国”と名乗れる状況ではなくなる。
「一刻も早く円安に歯止めをかけなければなりません。利上げを加速すれば、住宅ローン金利などの金利が上がるので、逆に景気が冷え込み不況になるリスクがあります。利上げしても国民の生活が困らないように同時に賃上げをしていく、賃上げのスピードが遅いので両輪でやっていくことが不可欠です。
財政のバラマキや消費税の引き下げはその時はいいかもしれません。しかし、2年後に税率を戻した時には物価がさらに上昇しており、二重の負担増になります。日本の経済をどう立て直すのか。少子高齢化に伴う労働力不足を解消して経済成長を押し上げる力を作るといった長期的な視点が、政治家として欠けています」
人気取りのバラマキと、現実を直視しない積極財政。高市政権がこのまま突っ走ると、日本は先進国からの転落どころか、国民生活の崩壊という最悪の結末を迎えることになる。
画像ページ >【写真あり】かつては世界第2位だったGDPが、来年には6位に転落する見通しに(他1枚)
