「編集者から入る赤字や赤線の量が第一作と比べて、大きく減りました。編集者にもびっくりされて、『成長されたんですね』って言われて。そりゃ、あれだけ赤線を引かれたら、僕も学びますよ」
そう笑うのは、俳優で、小説家の高知東生さん(61)だ。10年前に違法薬物の使用で逮捕され、どん底から薬物依存症の回復プロセスを歩んできた高知さん。2023年に発表した自伝的小説『土竜』(光文社)から3年ぶりとなる新作小説『今日も眠れない』(光文社)を出版した。
暗中模索のなか、書き上げた自伝的小説『土竜』は高い評価を受けた。作中で、自身をモデルにした竜二の弱さを容赦なくさらけ出し、徹底的に突き放して書いている。これができたのは、薬物依存の回復プログラムの影響が大きいという。
「自助グループでのグループワークや、12ステップ・プログラム(依存症回復のためのプログラム)を通じて、自分を俯瞰で見られるようになりました。その過程で、自分の過去や認知の歪みに、真剣に向き合えたんです」
2作目となる『今日も眠れない』で描いたのは、依存症や生きづらさを抱える人たちが、暗闇の中でもがきながらも光を見出していく葛藤と再生の物語だ。物語の着想は、実際に自助グループで出会った仲間たちの体験から得ている。
「僕は薬物をやめてクリーンになって10年、そんな仲間たちと出会って8年になります。それまで僕は人に言えない人生を隠して、カッコつけたり、無理な自分を作り上げていたんです。でも、自分の弱さや苦しみを全て打ち明けられる場所があるんだと知って、仲間が増えていきました。
そこで彼ら彼女らの物語を聞いて、『すっげえな、これ全部映画にできるやん』と思って。仲間たちの『え、そんな人生があるのか』という物語を色々聞いて、それが今回の1つ1つの物語の着想になっています」
■「バラエティ番組での経験が創作の武器になっている」
もちろん、聞いたことをそのまま書くわけではなく、話を膨らませていく。それには過去の芸能生活での経験が役に立っている。
「バラエティ番組などでは、実際に起きた1とか2の真実を、どれだけ膨らまして面白く話すかということをやらないといけない。出るたびに、その訓練を受けていたようなものでした。プライベートでも、目の前の奴らがどれだけ笑ってくれるか、飛びついてくれるか、すごい訓練をしましたよ。そういうことをやっていくうちに、それが身についちゃって。
でも、そこに苦しむ自分もいたんですよね。人の顔色見たり、ここで盛り上げなきゃと思ったりするようになって……。
今はそれが1つの武器になっている。小説で求められるときだけ、使うようになりました。小説の『創作』において、バラエティ番組で学んだ話を盛るということが役立っています」
こうして生まれた本作には、さまざまな“弱さ”や“依存”を抱えている人たちが登場する。
「これを読んで『一人じゃないぞ』って。『勇気をもって助けてくれって声を上げろ』と伝えたいですね。必ず同じ苦しみをもって、そこから出会い直して生き直している人たちがいるから。そこに絶対出会えるから諦めるな、って。
『リカバリーカルチャー』というんだけど、回復者が新たに作る文化、それが新しくエンタメとして生まれてくればいいんじゃないかなと思って。だからこの作品も、そういう気持ちを込めて書きました」
いまは他のことをしていても、小説のことが頭を離れないという。
「執筆はもう飛び飛びですね。とにかく、降りてこないと書けない。本当に降りてこない時は降りてこないんですよ。そんな時に無理やり文字数を稼ぐように書いても、結局自分で納得できないんですよね。
全然違う仕事をしててファミレスでご飯を食べていると、急に自分の頭の回路がふわっとそっちに行っちゃう時があって。急いでスマホのメモにバーッと入れたりとか、そんな時の方が思いつくもんなんですよね」
すっかり小説家の顔になった高知さん。これからも新しい作品を生み出していく。
【INFORMATION】
https://books.kobunsha.com/book/b10203658.html

