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連載第9回
参議院選挙後に日本市場の鍵を握るアメリカ人女性

参議院選挙を前に、日本の株式市場にアベノミクスに昨年末来群がった世界のヘッジファ
ンドが戻ってきているのでは?との憶測が世界の経済ジャーナリズムで見受けられたが、参議院選挙後にはそう単純には事は進まないだろう、とユアサは分析する。

 

 

7月11日、黒田東彦日本銀行総裁は記者会見で、日本経済には「前向きの循環メカニズムが働き始めている」と語った。他方、中国経済の減速懸念については、今後も内需中心の安定成長を続ける可能性が十分見込めるとしながらも、その動向を注意して見ていくと示唆した。振り返ると、同じ11日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、前日終値比169.26ドル高と大幅続伸し、5月28日につけた史上最高値を約1カ月半で更新した。さらに翌12日にも、小幅続伸して1万5、464.30ドルと、2営業日連続で終値ベースの史上最高値をつけた。

 

 

ニューヨーク市場の史上最高値更新は、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、ここに至ってその実力をやっと示し始めたとの見方もなくはないが、後任として、ジャネット・イエレン現FRB副議長の名前があがるなど、バーナンキ再任説は目下消えているといわれる。イエレン副議長が昇格となれば、FRB史上初の女性議長が誕生する。しかも、副議長は議長にならない、というジンクスを破ってだ。

 

 

イエレン副議長は4月初めに黒田総裁が画期的金融緩和策を打ち出した際に、アベノミクスを評価するコメントを発信してくれており、日本としては、もしイエレン新FRB議長誕生となれば、歓迎すべきことだろう。ヘッジファンドの一部に黒田金融緩和策へのハイリスク警鐘の圧力が強かったことを考えると、彼女の評価コメントは、日本として本当にありがたかったのだ。

ウォール街の話に戻すと、FRB議長が誰になるかについては、歴史的には予想外な人事が起きる可能性が大だ。数カ月前、キャロライン・ケネディ氏が新アメリカ駐日大使になることを的中させたこのユアサでも、新議長発表だけは息をひそめて待つほかはない。早ければ、この夏オバマ大統領が指名を決断することになるだろう。

 

 

さて、ニューヨークの実感では、ウォール街(ニューヨーク証券取引所の株価をウォール街と大ざっぱに表現するのが、ニューヨーカーのクセである)が、バーナンキFRB議長の〝頑張り〟で史上最高値を更新したというより、12日にウォール街を代表する超メガバンク、モルガン・チェース銀行が市場関係者の予想を上回る好決算を発表したことが波及効果をもたらしたといえよう。

伝統的巨大企業群を抱えるニューヨーク証券取引所に対して、西海岸などのハイテク企業群を多数有するナスダック店頭市場の総合指数のほうはというと、21.78ポイント高の3600.08で、7月12日の取引を終えている。これは2000年9月29日以来、なんと約12年3四半期ぶりの高値だ。
この裏には、6月上旬にオバマ大統領が世界のハイテクの中心地、西海岸のシリコンバレーを訪れた効果がある、とユアサ分析。

 

 

実は、アメリカ市民は日本の人々が想像するよりも株式市場と縁が深い。大都市だけでなく、全米津々浦々で、人々は株を買うこと自体にとても熱心だ。
もちろん、株式好きといえば世界は広い。アメリカ人の株式好きに匹敵する人たちがいる。天候を挨拶の話題にするロンドンっ子のごとく、株式の上がり下がりを日々の挨拶代わりにする上海市民だ。

そもそも上海市場は、およそ1カ月前の6月下旬に株価暴落を起こし、世界の投資家を震撼させたが、上海の人々は短期的な株式の売買に慣れていて、今回の暴落からの気分的回復が早かったのも、上海人気質と無縁ではなかろう。
上海市場が落ち着きを取り戻してきているといわれる現況が、アメリカの株価押し上げの一因ともユアサは分析する。

 

 

大ざっぱに考えて、上海の株式市場を見るうえで何といっても大切な中国の不動産市場は、ここ3年くらいピークを維持しているとの実感がある。一般的な家庭が持ち家を5~6軒所有する話を耳にしても自然なことだと考える空気が、上海のみならず、近郊のほかの都市でもかなりな程度存在する。これをざっくり円換算すると、日本だと都内や東京近郊に100~200平米の土地付き持ち家を数件所有するのと似たり寄ったりな不動産価値があるとユアサは想定する。

 

 

5月の日本の株価急落前に株を売り抜けたとアメリカで報道された著名なヘッジファンド投資家ジョージ・ソロスが、参議院選挙前に「再び日本の株式市場に参戦」の話がウォール街の注目を集めた。しかし、同時期にソロスは、中国市場の専門家とも会議をしていたとの噂がウォール街でささやかれている。

ソロスの日本株再参戦が日本や世界のメディアの一般的視点だが、日中両市場への注意深い同時にらみのなかでの再参戦戦略である、というのがユアサの推理分析だ。
だいぶ以前の話になるが、全くの偶然でユアサがひとり住んでいたニューヨークのマンションにソロスのオフィスの一つが入り、彼とたまたま遭遇したことがある。その際に、ソロスはヘッジファンド投資家というより、希代の政治家の空気を持つ、とユアサは正直感じたものだ。

 

 

さて、上海の株価下落は、かなりウォール街を驚かせた。
アメリカや世界の投資家たちにとって、中国市場と日本市場ではインパクトが違う。
長年、ニューヨークのミラー相場としばしば報じられた日本市場で、円が円安から円高になり、株価が外為市場と一時的にずれながら推移して選挙を前にして一定のもみ合いを続けても、アベノミクスのリスクについてアメリカはさほど関心は深くなかった。

ウォール街の鉄則は「将来的にマネーがうなるであろう場所には自ら足を運ぶ」である。
しかし、実はそれだけでは足りない。その足を運んだ場所で、かの地の人々と同じ立ち位置に、さらにいえば同じ靴の位置に自ら立つ想像をしながら、相手の視座で推理分析することが大切だ、と国際弁護士ユアサは考えるのだ。

 

 

訴訟弁護士のキャリアを有するユアサに言わせると、日本の経済ジャーナリズムは、相手と強く対峙するのは得意だが、対象と〝さらっと対峙する〟のは不得手だ。参議院選挙と関連してチャイナ・リスクを緊急主要テーマの一つに急浮上させた経済ジャーナリズムだが、相手をしなやかに分析する迫力はまだまだ足りない。ユアサ的には、日本のメディアのいうチャイナ・リスクは今に始まったことではない。相手と同じ靴の位置に立つ想像をして、相手の経済的な視座を推理分析する能力がやや弱いように見える。
逆にアメリカは、12日に開催された米中戦略経済対話で、閉鎖的との批判を受けてきた中国の金融部門などの開放に向けた措置を講じていくこと財務省が明言した。
アメリカは中国に対して、あの手この手でネゴシエーションをする。その背景には「中国から市場を見る視座がある」のだとユアサ分析。

 

 

ところで、最近の日本でのチャイナ・リスクについての報道で、ユアサが目にした範囲内で秀逸と思わせたのは、冒頭に紹介した7月11日の黒田日銀総裁記者会見くらいだ。
黒田総裁が、今後も中国では内需中心の安定成長を続ける可能性が十分見込めるとしながらも、その動向を注視していくと述べた点は実に切れ味がある。
ユアサ分析をすると、この黒田発言と中国市場関係者がとる立場の間に、微妙に〝ずれ〟があるがゆえに好対照をなしていて鮮やかなのだ。
すなわち、ウォール街の中国市場関係者たちの一般的発想は、中国の市場も下振れリスクがあるが、それは世界のどの株式市場も同じで、そのなかでも内需が強い中国市場は彼ら市場関係者にとっては大いなる誇りである、という中国サイドに立った見方である。

 

 

結論を急ごう!
ユアサの推理分析は黒田総裁発言を含むあらゆる考え方とは別の角度からのものだ。
参議院選挙直後の今現在、リスクのうち、株式リスクと外為リスクを比べると、どうしたって外為リスクのほうがより大きい、とユアサは考える。
わかりやすく言うと、一般的には参議院選挙後、日本の株価はゆっくり上昇傾向にあると思われ、円ドル外為市場ではゆっくり円安傾向が続くと考えられている。しかし、ぶれだすとしたら、外為市場が引き金を引くとユアサは読む。
ゆっくり円安でいくと、比較的に日本の経済は安全で、株価も急上昇傾向へのきっかけをつかむことさえ十分ありうると思われる。が、外為市場がもみ合いになりだすと、日本の外為円相場の安定性はかなり脆弱なので、各国の下振れリスクとあいまって株式市場にも強い影響を与えると考えられる。そこで、「外為市場のもみ合いを注視」するのが非常に大切である、とユアサは分析するのだ。

 

 

ここだけの話だが、アベノミクス初期には、円安に味方する空気がアメリカ国内にあふれていた。結果としてアベノミクスは、そのアメリカの円安容認の絶対的空気をクッションにして旋風を巻き起こせた。しかし、そこまでのアベノミクス的な円安への強い情緒的思いは、今のアメリカには見当たらない、とユアサ分析。
だから、世界のヘッジファンドと外為市場が、ウォール街でいうところの〝ワルツを踊りだすリスク〟を、日本は参議院選挙後により意識すべきだろう。
その意味でも、黒田金融緩和に味方発言したことがあるジャネット・イエレン氏がアメリカのFRB新議長に女性として初めて指名発表されるか否かが、ユアサ的に大注目であるのだ。   (了)

 

 

 

①FRB

米国連邦準備制度理事会。アメリカの中央銀行にあたる。上院の助言と同意を得て、大統領が任命する7人の理事で構成され、理事のうち1人が議長として統括する。FRBは、大統領に対しても強い独立性を持つ。FRB 議長は伝統的に、アメリカ大統領に次ぐ、アメリカ第二の最高権力者と呼称される。

②JPモルガン・チェース銀行

資産規模で米国最大の巨大銀行。1年ちょっと前、〝ロンドンの白鯨〟と呼ばれた腕利きトレーダーの取引失敗で、天才銀行家ジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)が頭を抱えていたが、ここにきて多才な人材が集まるチームとして底力を発揮している

 

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