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連載第25回 カレや夫の就職や転職の際に、アメリカ女性はパートナーと何を話し合っているのか?

「カレや夫の就職や転職に際して、アメリカ女性はパートナーと何を話し合うのか?」
この問いに対する答えのキーワードは『自由』である、と国際弁護士ユアサは確信しています。アメリカでは、仕事で得るお金は「自由な時間の充実」のために使われるという社会の共通認識があります。

 

「自由と正義と、窓のある席を求めて頑張ってね!」と女性から明るく励まされると、パートナー男性はスーパーヒーローのごとく元気が出るようです。ちなみに、日本では「窓際族」という言葉はネガティブなニュアンスですが、アメリカでは「窓のある席」は大出世の象徴なのです。

 

ところで、ウォール街ですと、就職や転職して最初の1~2年は、プライベートの自由な時間も犠牲となる毎日が続きます。
ユアサも国際弁護士1年目は、土日も含めた年間365日のうち、362日は早朝から真夜中過ぎまで、徹夜続きも含め、仕事だけに没頭した生活を送りました。
ですから、パートナーの就職や転職に対するアメリカ人女性の思いには、プライベートの犠牲もいとわない同志としてのそれがあるとユアサ分析。

 

自由に続くキーワードとして『同志で、しかもよき聞き役となる』ことが挙げられます。
これについては少し補足を。
カレや夫が就職や転職をすると、「私も!」という思いを強くする女性が増えるのがアメリカという国なのです。自らの就職・転職をにらみながら、情報収集も兼ねて、パートナーの相談に乗るというスタンスです。カレや夫もそのほうが気楽で、つまらないことでも聞いてもらえてありがたいと考えているようです。

 

さらにここで『親』、とりわけ『女性の親』もキーワードのひとつとして挙げておきましょう。
最近、ユアサの知人の弁護士夫婦で起こったケースです。妻はウォール街で、夫はマンハッタンで弁護士をしています。年齢はともに30歳前後。
妻を通じて夫の転職についてユアサが知ったのは、数カ月前、ウォール街で弁護士仲間とランチをしていたときでした。
「夫がニューヨークから引っ越したいと言い出しているの。西海岸のロサンゼルスで仕事をしたいんですって」
そう語る妻の表情がやや硬いのが気になりました。彼女はさらに続けて、
「あの街には夫の結婚前の元カノが今も住んでいるのよ! 信じられる? 元カノの住む街で私たち暮らしだすのよ!?」
その場にいた女性たちが一斉に強くリアクションしだしました。

 

ユアサは、そのちょっとした騒ぎに割って入り、にこやかに尋ねました。
「君は旦那さんとどこで出会って、どうやって恋に落ちて結婚したの?」
彼女は少し柔らかな表情を取り戻して答えました。
「交際を始めたのは首都ワシントンD.C.で仕事していた時代だけど・・・」
「出会ったのは?」
「夫と出会ったのはテキサス州よ」
妻は誇らしげに言います。
「それだ!」ユアサはすかさず言いました。
「西海岸とテキサスはいろんな意味でライバルだ。土地の広さ、数々の巨大ビジネス、美人女優の出身地・・・君の故郷は?」
「私の故郷はテキサスよ!」
「親御さんは?」
「親は今もテキサスの故郷の町にいるわ!」
彼女はいつの間にか明るさを取り戻していました。

 

そしてつい最近のこと、ユアサは友人であるその弁護士妻から感謝されたのです。
「あのときはありがとう、タカシ! 夫がテキサスで仕事を見つけたから、夫婦でテキサスに引っ越すことにしたわ」
自分の親の近所に住むのだと、彼女はうれしそうに付け加えました。

 

ユアサは、アメリカでは就職や転職がしばしば引っ越しを伴い、それが夫婦やカップルの愛の試金石となることを山のような具体例で知っています。
たとえば、ロースクール主席卒業で、最高裁判所裁判官の助手やウォール街など就職先が自由自在であったオバマは、卒業するやいなや、シカゴで貧しい生活苦にあえぐ人々のための草の根活動に身を投じました。
実は、その場所はオバマではなくミシェル夫人の故郷の近くだったのです。巨億の富を初めから考えもしなかったオバマと、エリート弁護士の道を惜しげもなく捨てたミシェル夫人のふたりともに素晴らしいのですが、最愛の夫人の故郷へと住居を大移動したのは夫のオバマのほうだったのです。

 

このあたりが、転職や就職のときにカレや夫と相談する際の、実は最大のテーマであると、ユアサはアメリカでの長年の生活経験でつかんでいます。
アメリカの広大な大地で暮らしていると、どんな明るい人でも孤独を感じるときがしばしばあります。そんなとき、ここアメリカでは「ママズ・ボーイ」(マザコン男子)、「パパズ・ガール」(ファザコン女子)という言葉がぴったりくるのです。
親と結婚後も同居していたい、お隣かもしくは、少なくとも車で30分以内の土地に住みたいという、アメリカ人の切なる希望がそこにはあるのだ、とユアサは分析します。

 

日本だと、ひょっとしたら気を使った親から、そういう話は後回しにしたらどう? などとアドバイスされるかもしれませんが、アメリカでは個人の意思として、どんな内気な女性でも、『親』というキーワードを自然な感じで、お互いの相談の会話に入れる場合が極めて多いのです。
さらに日本の場合、パートナーが就職や転職するとき、「大変だから頑張って!」が基本スタンスでしょうが、アメリカでは頑張りを期待するだけでなく、同時にそうした大変な状況の下でも、変わらぬ愛を自分に惜しみなく捧げ続けることを要求します。
パートナーの人生の一大事である就職や転職に際し、アメリカ女性は自分の親への愛情を再認識するとともに、そのことを話し合う過程で、ふたりの真摯な愛をも確認しあうのである、とユアサは分析するのです。

 

先のアメリカ人弁護士夫婦の、妻の故郷テキサスへの引っ越しが決まるまでの詳細な経緯を、その後、ユアサは耳にしました。

 

段ボール箱で全身をおおわれた箱型ロボット同士が対戦し、段ボールをはがされたら負けというユーモラスなイベント「スタンダード・トイクラフツ・カードボード・ロボット・バトル(Standard Toykraft’s Cardboard Robot Battle)」が、この1月にブルックリンで開かれたときのこと。
この箱型ロボットの試合に、ロボット役をいとこに頼んで、自分はロボット製造担当で参加したい! と、テキサス出身妻が夫に突然言い出したそうです。
不思議に思った夫が妻のいとこに電話すると、彼は内緒話を打ち明けたのでした。

 

妻はいとこにこうお願いしたとのこと。
「当日、会場に夫には応援役で付いて来させるの。でも、突然、あなた(いとこ)は会場に来られなくなるのね、突然よ。すると、私はアメリカ女性の意地にかけて、自分が製作した箱型ロボットに入り、大会に出て戦うと言い張る。対戦相手はきっとマッチョな男性よ! そこで、夫が『妻の危機だ! 自分が戦う!』って、運動やスポーツには全然自信がないのに言ってくれたら、私は彼の愛を信じて元カノのいるロサンゼルスに一緒に引っ越すわ」

 

いとこの話を電話口で聞いた夫は泣いていたそうです。
そして、しばらくのち妻にこう提案しました。
「仕事の当てがあるんだ。夫婦一緒にテキサスに引っ越そう!」
結局、箱型ロボットの試合は、観客として夫婦で楽しんだようです。

 

4月は旅立ちや再出発の季節でもあります。
3つのキーワードのうち『同志で、しかも、よき聞き役となる』はともかく、『自由』そして『親』は、就職・転職のキーワードとして日本社会では必ずしも認識されていません。
しかし、アメリカではこの3つともが、カップルや夫婦にとって、人生の一大事に当たって避けては通れない最重要ポイントなのである、と国際弁護士ユアサはここに断言します。

 

(了)

 

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