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連載第34回 「ウォール街の夏休み勉強法」

さまざまな試験で最高の成績を残してきた〝専門家〟が集中する職場はウォール街である、というのはアメリカ社会では常識です。しかし、彼らの家族や子供たちのテストの点数となると、良くも悪くも実にさまざまなようです。
その理由の一つは、アメリカには子供時代に受験期がないからでしょう。

 

一般的に日米で比較すると、日本よりもアメリカの大学生のほうがずっと勉強していますが、高校までは日本の子供たちのほうがより勉強していると言えるでしょう。
どこの国でも、親はできればもうちょっと子供に勉強してもらいたいと思いがちですが、〝個人主義社会〟アメリカでは、子供たちの独立心が強烈で半端ないため、親の願いは二の次となるのです。

 

アメリカ、とりわけニューヨーク・ウォール街で子供たちの効果的な勉強法と見なされているのは、夏休みを活用する方法です。多くのアメリカ人が、バケーションの間に自らの夢について真摯に向き合う時間を持つからです。
このとき、家族で大切にするのは、徹頭徹尾、子供の純粋な価値観を親が大切にし、子供の膨らむ夢を家族全員で温かく共有することです。子供が抱く夢に家族も誇りを持ち、それを持ち続けることに心から敬意を払うのです。

 

ウォール街で働くアメリカ人が、子供の夢にふさわしい無限の可能性を感じさせる知的空間として第一に考えるのは、マンハッタンはセントラルパークの西側にある「アメリカ自然史博物館
です。
恐竜などの巨大化石標本の凄まじい迫力をはじめ、見て回るのに丸一日は軽くかかる展示物の豪華さで、ニューヨーク的意味で「ウォール街的夏休み勉強法」のエキサイティングなトップを飾るに値する場所であることを、国際弁護士ユアサもここに保証します。

 

広大な分野の多数の専門家の、長年にわたる努力の素晴らしい集積と言えるアメリカ自然史博物館は、子供の夢と家族の心を受け入れる、その豊かな多様性に特徴があります。
この博物館で「ウォール街的夏休み勉強法」のビジョンを、多くの親子がつかむようです。

 

そのビジョンとはどんなものでしょう?
いかなる時代でも、ウォール街の親は将来的にわが子にも何らかの分野で専門家になってほしいと考えています。
その意味では、「ウォール街的夏休み勉強法」は一方通行であってはいけません。
〝超個人主義社会〟ウォール街の親たちは、自分の専門家としての目標や、長年の課題を実現させるために今この瞬間も努力している姿を見せることで、子供に学ばせようとするスタイルをとるわけです。ですから、「ウォール街的夏休み勉強法」とは子供にも家族にも向けられた言葉なのです。
まず、親自身が夏休みに〝子供の範〟たらんとする姿勢がポイントになるのです。

 

ポイント戦略は、『あぶはち取らず』ではなく、『あぶはち両取り』を狙う「ウォール街的夏休み勉強法」であるとユアサは分析します。わかりやすく言えば、ウォール街の仕事のプロには、しばしば「専門分野を2つ持ちたい!」という思いが心の奥底にあります。
ですから、国際弁護士ユアサの専門が、ウォール街の銀行法とIT法という2つの分野であるのは偶然ではないのです。アメリカの法律家の間では、可能であればゼネラリストよりも専門を持つことが好まれるのですが、その際も2つの専門分野を持つことが多いようです。そのことを、ユアサは幸運にもアメリカに来てごく早い時期に、恩師のロースクール教授や親友アメリカ人弁護士から別々の機会に教えてもらっていたので、計画的に2つの分野を専門に持ったのでした。

 

いったん1つの分野の専門家になった後で、熟年期以降に2分野めの専門家となることを目指すアメリカ人弁護士は多いのですが、大変な努力と体力の消費を強いられるのです。2つの専門分野を持つタイプが最も安定しており、3つ持つことは体力的に無理だと、国際弁護士ユアサは断言します。

 

これを子供の立場に置き換えると、「さあ、2科目を同時に勉強しようよ!」ということになるのです。
さらに具体的に言うと、「夏休みに、得意科目と苦手科目を交互に勉強してみようよ!」ということです。得意と苦手を常に組み合わせることがミソで、最終的には2科目ずつ全科目やって構いません

 

この時、ウォール街の親は、自らの得意分野をもとに専門分野を2つにしようと努力しているので、苦手科目にも対応しなければならないわが子より、ほんの少し楽をしているのですが、そこは達者なウォール街の仕事人だけに、「得意科目と苦手科目を交互に勉強すれば、飽きないし、すごく気分転換にもなるよ!」と、子供を説得にかかる次第です。

 

子供のほうも「自分も専門分野を2つにしようと努力している…」とか、仕事の話を率直にしながらの親の説得なので、自分をまるでウォール街の同僚のように扱ってくれた、という気分になり、家族の説得をまじめに受け止めやすいと、ユアサは彼らとの食事会での会話から気が付いたことがあります。

 

キーワードは「苦手科目」です。
日本では苦手科目と聞くと、模試の偏差値の低下につながるというイメージだけが、パッと浮かびます。
しかし、ウォール街では専門家文化の信念に基づき、「子供に苦手科目もやらせると、彼がもしも専門家の道を選んだ時、長い人生で非常に役に立つ」と考えます。
なぜなら、専門的内容に関して、専門外の人々と分かりやすくコミュニケーションすることが、仕事において専門家にも極めて大切となることが多いからです。臨床医の医師と患者の関係がよい例です。

 

この文脈で、専門家は子供時代から苦手な分野の勉強に一生懸命に取り組んで、自ら「何だかなあ、分かりにくいなあ…」という思いを体験しておくと、専門外の人々への説明の際の柔軟性や優しさが自然に身につくとウォール街では言われるのです。これが、狙いなのです。

 

「若い頃の苦労は、買ってでもしろ!」と日本でよく言われますが、ウォール街の家族だと、「若い頃の苦手科目は、得意科目と交互にやってでもしろ!」ということになります。具体的には、両科目を同じ時間をかけてやったほうがいいでしょう。そうでないと、誰でも、好きな科目を85分、苦手科目は5分だけというふうな時間配分になりがちですので。

 

ウォール街の親は、青雲の志を持って本格的な専門家となったからには、月曜から金曜までで仕事は終わらず、週末も働くことが多い仕事だと分かっています。
その毎日が何十年以上も続く中で自らを明るく進歩させ、新鮮な思いを持ち続けるためには、子供には若い頃から得意科目だけでなく、苦手科目を合わせてこなすくらいの柔軟な勉強姿勢が良いと実感しているのです。
そうした親ならではの正直な実感で、「2科目同時並行勉強法」を子供に勧めるのです。

 

ニューヨークのアメリカ自然史博物館に感動するニューヨーカーの親子の表情は、充実感にあふれています。ウォール街家族の子供たちへの思いは、ニューヨーク的温かさだ、と言えます。ただの「もっと勉強しなさい!」ではなく、「もっと自分の中の貴重な蓄積になる形での、攻めの努力を続けようね」ということを子供に分かりやすく説明し、その後で、「得意科目と苦手科目の交互勉強法」を提示する手順が、日本社会の家族にも参考になる「ウォール街的夏休み勉強法」のアドバイス・ポイントであるとユアサは明言します。平均点アップのためだけでなく、自分の長い人生への前倒しの攻めのために、苦手科目にも同時に堂々と立ち向かうというのが、「ウォール街的夏休み勉強法」に秘められたガッツな人生観なのですから。

 

(了)

 

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