「楽・食・歌舞伎 彌十散歩(やじゅさんぽ)」其の壱のテーマは「産声をあげた江戸歌舞伎・猿若座」です。
寛永元年(1624年)、京都からきた猿若勘三郎が中橋南地(現在の東京都中央区京橋付近)に、江戸初の常設芝居小屋「猿若座」の櫓をあげたのが江戸歌舞伎の始まりと言われています。その後、江戸にはいくつもの劇場や芝居小屋が建てられますが、演劇評論家の犬丸治さんによれば、当時の江戸でもっとも権威があったのが猿若座、のちの中村座でした。
「寛永9年(1633年)に幕府が作った御用船『安宅(あたけ)丸』回航の際、勘三郎は舳先に立って木遣り歌で音頭をとったそうです。そのことで幕府から金の采と陣羽織、さらに安宅丸を覆っていた布を拝領しました。この布から勘三郎は舞台の引き幕を作った。それが歌舞伎ファンには『平成中村座』で馴染み深い『黒・白・柿色』という配色の定式幕だったとされています」(犬丸さん)。
そう、この猿若勘三郎こそが、初代中村勘三郎なのです。
2012年12月5日に急逝した十八代目中村勘三郎さんと、公私にわたって親交の深かった彌十郎さん。散歩の“第一歩”には亡き勘三郎さんへの思いも込められていました。
【Chez Inno(シェ・イノ)】
散歩の途中に味わったのが、彌十郎さん行きつけのフレンチレストラン。パリの美食家たちが集うグランメゾン(格式高いレストラン)を継承する正統派フランス料理店として1984年、世界に名を馳せるオーナーシェフ・井上旭氏が京橋に開店。
住所:東京都中央区京橋2-4-16 明治京橋ビル1F
TEL:03-3274-2020
営業時間:ランチ 11:30~14:00(L.O)/ディナー 18:00~21:00(L.O)
定休日:日曜日
次回の彌十散歩(やじゅさんぽ)は『Chez Inno(シェ・イノ)』の店内や料理、そして彌十郎さんの面白エピソードをお伝えします。
坂東彌十郎(ばんどう・やじゅうろう)
1956年、往年の銀幕の大スター・初代坂東好太郎の三男として生まれる。祖父は十三代目守田勘彌。1973年5月、歌舞伎座 『奴道成寺』 の観念坊で初舞台。八代目坂東三津五郎、三代目市川猿之助のもとで芸を磨く。近年ではコクーン歌舞伎や平成中村座など、十八代目中村勘三郎との共演も多数。平成中村座の海外公演にも参加してきた。また、今年(2016年)5月には、ヨーロッパ(フランス、スイス、スペイン)で歌舞伎の自主公演を敢行。大好評を博した。長男は初代坂東新悟(26)。