人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!
日々論争のなかにある食べ物業界。
オーガニック…無添加…ベジタリアン…
インスタント化する食べ物が増えていく一方で、同時に食べ物に気を配る人も増加の一途を辿っている。
世界にある数多の食文化から
多くの人が健やかにありたいという想いでいずれかを選択する。
しかしこの情報化社会においてあまりにもいろんな説が混在しすぎて、
正解がわからずいろんな情報に右往左往する健康難民が多いのも食べ物業界の実情だ。
健康オタクを自称するわたしから言えるのは、これは信念のようなものだから、
己の信じる道を行くしかないということ。
自分がいいと思えるものを、自分で選ぶしかない。
さてそんななか、わたしは今回素食というものに出会った。
台湾に普及する健康料理だが、日本でも数店素食レストランがある。
そのうちのひとつ“中一素食店”にお邪魔すべく、わたしは東京の国立に降り立った。
漢方ラーメンという興味深すぎる旗を横目に、店内に乗り込む。
落ち着いた店内。お昼はランチメニューも用意があるようだ。
…おかしい。
素食=菜食料理だと聞いていたはずだが、
メニューを開くと「酢豚」や「回鍋肉」「餃子」「春巻き」とおなじみの中華料理がズラリ。
な、何が起きている!?ベジタリアンじゃなかったのか!?
わたしは訝しみながらいくつかの品を注文した。
はじめに来たのはおいしそうなエビフライだ。
一口食べると…
あれ…
エビフライじゃない…!!!
いやいや棒棒鶏はもうどう見てもばんばn…
鶏じゃない…!!!!
す、酢豚も…!!?
限りなくお肉に見えるけどよくよく見るとお肉じゃない!!!
そう、素食とは
肉・魚・卵を使わずに作り出される「豪華料理」のこと。
五臓(腎臓・心臓・肝臓・脾臓・肺臓)によくないとされる五葷(ごくん)と呼ばれるニラ、ニンニク、ネギ、らっきょうも一切使われない。
それにも関わらず、見た目・味・ボリュームなどが普通の料理に引けを取らない素食。
可能にするのが、野菜であり、こんにゃくであり、大豆から作られるお肉もどき“大豆ミート”なのだ!
酢豚の“豚かたまり肉感”を演出しているのは、大豆とグルテン。
噛み締めると滲み出る甘みや、お肉らしい絶妙な硬さ、グルテンの脂身っぽさは完全に遜色ない。
酢豚ですって出されたら酢豚ですかと信じるレベルで酢豚だ。
本当は酢豚改め酢大豆だなんて思えない。
もちろんソースにも動物性成分は一切使われておらず、りんご・パイナップル・梅・レモン・トマト・セロリといったフルーツや野菜をふんだんに使ってスパイシーに作られていて、
その深い味わいに舌鼓…。
棒棒鶏も限りなく棒棒鶏感があるが、こちらはゆばを重ねて作られている。
鶏皮部の焦げ感もお肉部の肉感も完璧な見た目だが、食べたらお肉じゃない衝撃に出会う。
他にも、こんにゃくで作られたイカや大豆のから揚げと様々な工夫を練られて素食は作られる。
北京ダック、ラーメン、ハム、餃子、素食に不可能はない。
動物性成分を一切使わなくても、おいしい食事を楽しめるのが“素食”なのだ!
健全な心は健全な食生活から。
“医食同源(バランスの取れた食事をすることで、病気を予防・治療しようという考え)”をモットーに、中一素食店は食事を提供する。
素食は体だけじゃなく、心も健康になるよう作られた料理だ。
例えば精進料理でありながら工夫でたくさんの料理が楽しめるように。
例えば五臓に悪いだけじゃなく、においや成分がきつく陰性の気が強い五葷を遠ざけるように。
ニラやにんにくを食べると元気になる…とよく言われるが、素食界ではそれは興奮剤的なものとして捉えられる。
不自然に気持ちを高ぶるような食物は控えることが健康への道であるようだ。
このように、世界にはいろんな食文化がある。
それを知ると、わたしたちは好きなものを選択できる楽しみを持っていることに気付かされる。
初めに動物性成分を使わないのに豪華な“素食”で驚きの体験をしてみてはいかがだろうか?
「中一素食店」
東京都国立市中1-19-8 中一ビル
http://nakaichifu.jp/
六本木支店も。サイトからは通販が可能。
米原千賀子
ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。