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今回は、私にとって生活の地としてなじみのある「サンルイ島」をご紹介します。

 

パリの真ん中を流れるセーヌ川の中州には2つの島があり、この2つがパリ発祥の地であるといわれています。ひとつはパリのシンボル、ノートルダム大聖堂があるシテ島。そして、そのお隣にあるのがシテ島よりこぢんまりしたサンルイ島です。

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左:右岸から眺めたシテ島。
右:ポン(橋)・マリーを渡ってサンルイ島に。

 

サンルイ島は、歩いて1周しても10分ほどの本当に小さな島。メインストリートであるrue Saint-Louis en l’ile(サンルイアンリル通り)にはたくさんのカフェやレストラン、お土産屋さんが連なります。日曜日もお店が開いている数少ない地区のひとつなので、お天気のいい週末などは観光客で埋め尽くされ、前に進むのがやっとということも。ですが、目抜き通り以外の場所はどこも静かで、思わずパリのど真ん中にいることを忘れてしまいそうになります。

 

観光地のイメージが強い場所ではありますが、生活をしている人もたくさんいて、もう何世代もこの島に住み続けているというファミリーも少なくありません。パリに住む人のことを「パリジャン」と呼びますが、サンルイ島に住む人は「ルドヴィシアン」。島人たちはパリジャンでありルドヴィシアンであることに誇りを持って生活しているのです。

 

公立の幼稚園と小学校も島の中にあり、ここに生まれた子供たちは、小学校を卒業するまで島に守られて生活できるようになっています。パリでは珍しく、住人同士の連帯感もあります。世話好きのルドヴィシアンは他人のことをよ~く見ているので悪いことはできませんが、そのかわり、困ったときには必ず助けてくれる力強いご近所さんたちでもあるのです。

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左:にぎやかな通りから中に入ると、パリにいることを忘れるほどの静けさ。
右:サンルイ島には子供たちもたくさん生活している。

 

私がこの島にたどり着いたのは14年前。パリに留学を決めた際、大学の先輩から女子寮をすすめられたのがきっかけでした。当時、パリのことを何も知らず「治安がよさそうな地区にある」という理由だけで選んだ寮が、このサンルイ島にあったのです。

 

右も左もわからないパリ生活のスタートが、このおせっかいなカルチエ(地区)から。初めて寮の近くにあるパン屋さんでフランスパンを買ったとき、「Un baguette s’il vous plait! アン(・・) バゲット シルヴプレ(バゲットを1本ください/しかし、バゲットは女性名詞なのでユヌと言わなければならない)」と言ってしまい、「UNE baguette! ユーヌ バゲット!(〝ユヌ〟が、数字の1を示す〝アン〟の女性形)」と迫力たっぷりに訂正されたのを昨日のことのように覚えています。

 

さて、サンルイ島には名物の食べ物があります。それは、今では島の代名詞にもなっているBertillon(ベルティヨン/29-31 rue Saint-Louis en l’ile 75004 Paris)のアイスクリーム。お天気のいい日の店前は、歩道からあふれんばかりの観光客が列をなしています。

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左:ベルティヨン。ゆっくり味わいたいときは、隣接のサロン・ド・テでアイスクリームや特製のパティスリーを。「タルトタタン」がおすすめ。
右:ベルティヨンのアイスクリーム。左からいちご、青りんご、そして、私のいちおし、クレヨル(ラムレーズン)!

 

定番のヴァニラ、チョコレート、モカ、塩バターキャラメルといったクリーム系に加え、旬のフルーツソルベがたくさん並びます。ベルティヨンの素材へのこだわりは半端なく、できあがりが気に入らなければすべて廃棄してしまうそう。そのこだわりは、口に入れた瞬間、しっかりと舌で感じることができます。いちばん驚いたのはバナナアイスでしょうか。大げさに聞こえるかもしれませんが、味といい、食感といい、今まで特に興味を持つこともなかったバナナアイスの常識をくつがえします。

 

ベルティヨンのおもしろいところは、アイスクリーム屋さんなのに真夏の8月、お店は1カ月間の夏休みに入ってしまうこと。日本人にとってアイスクリームは夏の風物詩。いちばん商品が売れるであろう時期に店を閉めてしまうなんて……と、びっくりしてしまいます。

 

では、フランス人はいつアイスクリームを食べるのでしょうか。ベルティヨンの前にフランス人が列をつくるのは、なんとクリスマスやお正月といった真冬の時期なのです。ふだん観光客が並んでいる店の軒先ではなく、その列の先頭は店内奥のレジ。そこからずらっと、年季の入った専用保冷発砲スチロールを持った人々が並びます。寒いなか、地元の住人はもちろん、パリじゅうからベルティヨンのアイスクリームを求めて人が集まるのです。暖かい部屋の中で、ケーキのようにかたどられたアイスクリームを切り分けていただくのが、パリ流アイスクリームの食べ方なのでした。

 

とはいえ、このアイスクリームを食べながらサンルイ島散歩を楽しむパリジャンもたくさんいます。町を歩いていると、ずらっと並ぶ建物の扉付近に、人の名前が刻まれた石板が埋め込まれていることに気づきます。これは、この人物がここに暮らしたという事実を記すパネル。サンルイ島は、古くからさまざまな著名人が好んで暮らしていることでも有名です。私が知っているだけでも、マリー・キュリー夫人、印象派の画家セザンヌ、詩人ボードレール、ジョルジュ・ポンピドゥー元大統領……あらゆるジャンルの歴史上の人物を見つけることができます。

 

いつかパリにお越しの際は、ベルティヨンのアイスクリームを頬張りながらサンルイ島を散歩してみてはいかがでしょうか。住人たちが愛してやまないこの島の、転がる魅力をたくさん見つけることができるでしょう。

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