「幕末塾に所属してアイドル活動をするなかで、水谷豊さん主演のドラマ『刑事貴族3』で新人刑事役に抜擢されたり、映画に出演したり。そんな時期に『白鳥麗子でございます!』(フジテレビ系)のオファーをいただいたんです」
こう振り返るのは、彦摩呂さん(57)。
「ボクは当時27〜28歳でしたが、19歳の学生役で(笑)。コメディドラマだから笑いが絶えなくて、雰囲気のいい現場でした」
共演者にも刺激を受けたという。
「松雪泰子ちゃんは、手足が長くてとにかく美人。コメディの表情は“白鳥麗子”のイメージにピッタリで、リハの段階から共演者と一緒に爆笑していました。萩原聖人くんは、当時の若手ではずば抜けた演技力の持ち主。原作が漫画ということもあって、泰子ちゃんやボクはデフォルメして演じていたのですが、それを浮き立たせるため聖人くんはあえてリアリティのある演技でした。ボクの恋人役の小松千春ちゃんは今どきの女のコという感じで、現場でも話題の中心でした」
あるとき、宴会のシーンで彦摩呂さんが、小松演じる京子を呼ぶシーンがあったが、つい「千春ちゃん」と呼んでNGに。
「仲がよすぎて、つい本名を。それで千春ちゃんに『マロピーの本名は?』って聞かれて『原です』と答えたら、それがすごくおもしろかったみたいで、笑いが止まらなくなりました」
もっとも思い出に残るNGは、公園のベンチに座っていた松雪が、広げていた新聞をたたんで立ち上がった際、鳩が一斉に飛び立ち、さっそうとその場を立ち去っていくシーンの撮影でのこと。
「鳩を集めるために、泰子ちゃんも一緒になってポップコーンをまいていました。いい具合に鳩が集まり、絶妙なタイミングで鳩が飛び立って、素晴らしい画が撮れたのですが……。泰子ちゃんが立ち上がったとき、うっかり背中に隠していたポップコーンの袋が映りこんでしまったんです。もう鳩もおなかいっぱいで、2回目のシーンを撮るのが大変でした」
ドラマは高視聴率をたたき出し、放送終了の8カ月後には早くもパート2が放送された。1995年には映画化も実現。
「この世で姿かたちが大きく変わるのは、エビかカニか彦摩呂かと言われるほど。ボクは当時、痩せていて、主役を支える、ちょっとコミカルな2.5枚目俳優だったんです。そんな、芸能人生での最大の功績を、今でもプロフィール上に残すことができるのは、『白鳥麗子〜』のおかげなんです」