「『デパート!夏物語』は、百恵ちゃんの『赤いシリーズ』や『スクール☆ウォーズ』(すべてTBS系)を手がけた、あの大映テレビが制作した作品。“主婦が家事をしていてテレビ画面を見られなくても、音声だけ聞けば内容がわかる”という大映テレビの方針をプロデューサーの野添和子さんが受け継いでいたから、セリフはやたら説明くさいし、走って急に止まるときは“キーッ”という効果音が入ったりして、まるで漫画みたいな演出」
こう語るのは、モト冬樹さんだ。新人デパートマンを演じる髙嶋政宏と、受付嬢役の西田ひかるを軸に、デパートで巻き起こる人間模様が描かれている。
「自分の役どころは、髙嶋兄が起こす問題を処理するお客様相談室の担当者。いつもストレスで胃薬を飲んでいるときにトラブルが持ち込まれたりして、薬をプーッって吹き出すんです。これも大映テレビらしいわかりやすい演出(笑)。キレイに薬が舞うように、太田胃酸を使っていました」
“わかりやすさ”は、セリフの発声にも求められたという。
「ベテラン俳優が情感たっぷりの渋い演技をしても、音声さんから『もっと大きな声ではっきり言ってください!』って何回かダメ出しされて……。聞いているこっちがハラハラしていました(笑)」
撮影ではいつも、お客様相談室課長役を務めた小林稔侍と一緒だったという。
「怖そうな顔をしているけど、すごく親しみやすい人。走ってドアにぶつかるシーンでは、思わず『あ?ん』と声が出ていました。あの顔で『あ?ん』ですからね(笑)」
ドラマの舞台となったのは、実在した伊勢丹相模原店。
「現場に入るのは朝早く、よく渋滞する時間帯。いつも時間ギリギリになるものだから、稔侍さんからは『遅刻になるから、オレより早く来るなよ』って念押しされていました」
そんな小林も、撮影中に機嫌を損ねることがあったという。
「『オレは絶対にそんなセリフ言えない』とか、譲れないところもあったようです。長く撮影していると“これはイライラしているな”とわかるんです。そんなときは、案の定『帰る!』と言い出して、スタジオから出ていっちゃう。しばらくしてプロデューサーになだめられ、バツが悪そうに戻ってくるのも、稔侍さんらしさがあってね。すごく大好きで、お世話になった先輩。久しぶりにお会いしたいですね」
■『デパート!夏物語』(TBS系・1991年)
実在した伊勢丹相模原店を舞台に、入社3カ月の高山大介(髙嶋政宏)と受付嬢の鈴木小百合(西田ひかる)が織りなすラブコメドラマ。 前向きすぎる性格の大介は小百合の父・哲男(小林稔侍)から「バカ まっしぐら」とあだ名をつけられた。