「『愛という名のもとに』(フジテレビ系)のチョロ役で人気が出て、調子に乗っていた部分もあったんですが、行く先々の撮影現場で監督と意見が対立してもめたりしていたものだから、どんどん仕事も減っていってしまったんです。そんな停滞期に役をいただいたのが、北野武監督の映画『アウトレイジ』でした」
こう振り返るのは、中野英雄さんだ。役を射止めたのは、その2年ほど前、ドラマでたけしと共演したことがきっかけだったという。
「たけしさんは『中野くん、今度、ヤクザ映画を撮るからやらないか』と言ってくれて。ボクを想定していた役は、たけしさん演じる主役に恨みを持って、復讐のためだけに生きているヤクザ。その時点でラストシーンまでの構想も語り、『2年後に連絡するから待ってて』と言ってくださったんです」
ところが2年待っても、連絡が来なかった。しびれを切らして当時のマネージャーにコンタクトを取ってもらうと、別の俳優に決まりかかっていた。
「たけしさんは、ボクに役の話をしていたのを『あー、忘れてた』って(笑)。危ないところでした」
撮影現場は独特の雰囲気だった。
「たけしさんは怒ったりするタイプではないのに、スタッフには独特の緊張感が漂っていて、静か。しかも北野作品は『テストのときからカメラを回している』という噂があったから、役者も“爪痕を残してやろう”とテストから全力。和気あいあいとした楽しい現場ではなく、いるだけで疲れました」
役のうえで、たけしとの関係性が深くなるようなエピソードのシーンも、数多く撮影したという。
「なかには、たけしさんと目と目が合って“最高のシーンでしたね”と通じ合うシーンもあったんですが……。試写を見たらバッサリと切られていました(笑)」
2作目に出演したときには、撃たれて死ぬシーンに挑戦。
「本番直前にマネージャーが『目を開けて死ぬと、本当の死になるけど、目を閉じていれば、もし3作目があったときに“じつは生きていた”という設定で出られるかも』と……。でも、主要キャラでも簡単に消えていくのが北野作品の魅力ですから、目を開けて思い切り死にました」
中野さんの息子・仲野太賀も、北野作品のファンだという。
「『いつか出たい』と語っていたこともあるから、当然『アウトレイジ』も見ているはず。だけど、ボクに対しては何も言いません。俳優として先輩だから、気を使ってあれこれ言うのをためらっているのかもしれませんね」
『アウトレイジ』(2010年)
「全員悪人」のキャッチコピーで知られる北野武が脚本、監督、主演を務めるヤクザ映画。過激かつ残酷でありながら、どこかコミカルさを感じるバイオレンスシーンが人気を博した。キャッチコピー通り全員口が悪いんだ、バカヤロー、コノヤロー。
【PROFILE】
なかの・ひでお
1964年生まれ、京都府出身。1985年、哀川翔の誘いで芸能界入り。1992年のドラマ『愛という名のもとに』で人気を博し、以後数多くの映画、ドラマで活躍する。
画像ページ >【写真あり】まさに「全員悪人」なアウトレイジメンバーの勢揃いカット(他1枚)
