とはいえ、罪もない子供たちに10年以上も辛い思いをさせている親の責任について
「出所してから、子供にあんまりしんみりしたことを言うのは避けようと思ったんです。やっぱり暗くなりますからね。むしろ犯罪者の子供であっても胸を張って歩けと言っています。理解できないかもしれませんが、しんみりして、とにかく許してくれと泣き事を言うよりも、ちょっとでも眞須美を助ける支援の力を増やしていかないといけないと思っている。もちろん、子供の将来も大事です。でもよく考えてくれ。おまえらのお母さんの命がかかっているんだよ。おまえらの苦労はわかるけど、とにかく今は、眞須美の命を救わんことにはどうすることもできない。こんな状態のまま死刑でもっていかれたら、悔しいじゃないか。本当は子供らにすまんという気持ちでいっぱいなんですよ」
健治さんは『すまん』とか『許せ』と今言ってしまったら、子供たちが妙な錯覚に陥るのではないか心配している。すまんと言うと、事件性を認めたような感じになってしまうのではないかと…だから、すまんというのは、ご自身の死に際に言おうと。それまでは黙っておこうと決めているそうだ。
「新聞を見たら、2ヵ月に一回のペースで死刑が執行されていることを子供たちは知っています。だから眞須美もヤバいんですよ。半年以内にブスッといかれるかもしれない。だけど、もしそうなったらそれはそれでいい。人間は遅かれ、早かれ、みんな死ぬ。初めがあれば終わりがある。どんな形で死んだって、やるだけのことをやったのなら、それはそれでいいじゃないか、というようなことしか子供たちには言ってない。そしてある意味では、おまえらは有名人だ。だから、そいつをバネにして戦ってみろ。それで解雇になれば、それでいいじゃないか。僕は淡々とそういうことを言っています。」(健治さん)
『すまん』という気持ちを言葉に出さないかわりに、子供たちがいつ家に来てもいいように、手料理を作って待っているという健治さん。
昔は外車を乗り回していた男が、いまではスーパーまで自転車に乗って、じゃがいもやトマトを買ったりしている。彼は言葉ではなく態度で気持ちを表しているのだ。
シリーズ人間【林眞須美】和歌山カレー事件・林家の10年は更新中