「主婦にとって、いちばん“身近な犯罪”が万引きだと思います。データには『主婦』というくくりはないので、『成人女性』で見てみると、ブランド物など高額な品を盗むという傾向がみられます。しかも近所ではなく、家からなるべく遠いところで盗むことが多い。さらに、防犯カメラや警備員が存在しない店舗を調べたうえで、犯行に及んでいるケースも。高齢者であれば認知症の場合もありますし、子どもなら善悪の判断がまだついていないこともありますが、成人女性は“確信犯”が多いです。さらに言えば、万引きに手を染める女性のなかには、『家族と暮らしている』『家族を生きがいにしている』という人が多いというデータもあります」
こう話すのは、弁護士・菊間千乃さん(45)。『めざましテレビ』やバレーボール中継のMCなどで活躍する人気アナウンサーだった彼女が、フジテレビを退社したのは10年前の’07年。’10年には司法試験に合格し、さらに現在は、NPO法人「全国万引犯罪防止機構(以下・万防機構)の理事兼広報・政策委員長として万引き防止活動に力を注いでいる。
万防機構には小売業界の多くの店舗、協会のほか、警備会社なども加盟。地域の警察との連携も図りながら、万引きされない店作りや転売防止対策の働きかけなどを行っているという。
「被害弁償を行って謝罪すれば許してもらえて警察沙汰にならない、被害金額が軽微であれば不起訴になる、せいぜい罰金刑で済むと考えている方もいるかもしれません。しかし、転売目的であったり、手法が悪質な場合は、初犯であっても懲役刑となり、事案によっては実刑となることもあります。また窃盗罪を行った際に、追いかけてきた店員さんを振り払おうと暴力をふるえば、強盗と同様に扱われ、事後強盗罪という重い犯罪になることもあります。また、当然家族には知られてしまいますが、大切な家族からの信頼を失うのは、主婦の方にとって、いちばん大きな代償ではないでしょうか」(菊間さん・以下同)
なかには、あまりに悲惨な結末を迎えたケースも……。
「2歳の子を持つ主婦が万引きで実刑判決を受け、2年に満たない刑期を受ける前日に自殺してしまったという事案があります」
ここまでのケースはまれとしても、自己犠牲が美徳とされる日本女性は誰もが罠に陥ってしまう可能性があるという。
「主婦の方は、皆さん頑張っていますよね。家族が疲れて帰ってくるのを全部受けとめて、慰めて……。そこにママ友やPTA、近所との付き合い、パートをしていれば、仕事のストレスまで加わって、もう本当に大変ですよね。しかも現代の女性って、『母としても、妻としても、職場でもいい女』であることがもてはやされています。でもそれが成立するのは周囲にたくさん手伝ってくれる人がいる一部の人だけで、一人で何もかもというのは絶対無理です。何もかも完璧にやろうとしてストレスをためこんで、犯罪に手を染めてしまったら元も子もありません。追い詰められそうになったら、どんどん手を抜く。どうか自分で自分を甘やかしてほしいですね」
万引きの罠に陥らないためには、家族だけではなく自分自身を大切にすることが必要なのだーー。