image

 

「被害者は多いのに、声を上げる人は少ない。それは、知り合いからレイプを受けることのほうが多いからということもあります。手紙やメールのなかで、いちばん多いのが、会社の上司や同じ業界の先輩からレイプされたという声でした」

 

そう話すのは、自身が受けたレイプ被害について記した著書『Black Box』(文藝春秋)を先月、出版したジャーナリストの伊藤詩織さん(28)。詩織さんは、アメリカの大学でジャーナリズムを学んだあと、日本の通信社でインターンをしていた。

 

’15年4月3日、アメリカ滞在時に面識のあった元TBSワシントン支局長の山口敬之氏と会食。その後意識を失い、レイプ被害を受けたと訴えた。山口氏から支局での採用の話を受け、ビザの相談をしている中での出来事だった。

 

その後、詩織さんは被害届を提出。’15年6月には、“準強姦罪”(※1)の容疑で逮捕状が発布されたが、警視庁刑事部長(当時)から異例の“待った”がかかり、逮捕は見送りに。山口氏は’16年7月、不起訴となった。

 

詩織さんは今年5月、名前と顔を公表して記者会見を開き、検察審査会(※2)に審査申立を行ったが、不起訴相当の議決が出た。そして、「同じような被害に遭う人をなくしたい。そのためのキッカケになれば」と、詩織さんは自身のレイプ被害をすべてさらけ出し、出版に踏み切ったのだ。

 

「レイプのような性暴力をなくすには、まず、被害をオープンに話せるようにしないといけないと思ったんです」(詩織さん・以下同)

 

著書のなかには、被害を訴える難しさを裏付けるデータも。’15年に内閣府男女共同参画局が実施した「男女間における暴力」に関する調査では、15人に1人という高い割合で、女性が「異性から無理やり性交された」とある。しかし一方で、事件化している件数は、人口10万人あたりで、わずか1.1件。

 

「職場で被害を受けて周囲の人や警察に相談したら、その会社で働けなくなるかもしれないし、生活を失ってしまうかもしれない。そんなことを考えたら、言えないですよね」

 

勇気を出して訴えるためには、被害者を守ってくれる法律や、社会システムが必要だ。詩織さんが、真っ先に必要だと考えるのが、性被害者に対応した医療センターだ。

 

「私が以前取材したスウェーデンには、レイプ緊急センターがあり、365日24時間体制で被害者を受け入れています。検査や治療、カウンセリングがすべてできます。それらが終わったあと、警察へ届け出をするかどうか、落ち着いて考えることができるんです」

 

さらに、今年6月、110年ぶりに改正されたばかりの性犯罪の刑法も、さらなる改善が必要だという。

 

「現状では密室で起こったレイプを罪に問うには、結局は被害者側が“脅迫”や“暴行”されたことを証明しなくてはならないことになる。だけど、被害者に対する調査では、約7割が被害の際に、体がフリーズして抵抗ができなかったと答えています。暴力を振るわれなくても恐怖心で抵抗できないことも多いのです」

 

こんな状況を変えるためには、「一人ひとりが、“おかしい”と思うことに声を上げて、我慢の連鎖をなくしましょう」と語る詩織さん。そんな詩織さんの後に続く人も増えている。

 

「私の本を読んでくださった読者の、『私も何か、自分ができることをしないといけない』という意見をよく見かけることがうれしいですね」

 

(※1)準強姦罪/酩酊状態などの心神喪失や抵抗できない状態で、相手を姦淫する罪。’17年6月の法改正により、準強制性交等罪に改められた。

 

(※2)検察審査会/検察官の不起訴処分の妥当性を審査するために、有権者の中から選ばれた11人の検察審査員が、検察庁から取り寄せた事件の記録を調べたり、証人を尋問したりして議決する。

関連カテゴリー:
関連タグ: