「沖縄の辺野古の米軍基地移設問題でゴタゴタが続いていますが、安部首相は、一貫して沖縄県民ではなくアメリカのほうを見ていますね。前政権ができなかったことを実現して『日米関係をここまで大事にしていますよ』とアピールすることに必死。昨年の沖縄県知事選で『ノー』を示した県民を見くびっているんですね」
こう語るのはNY(ニューヨーク)タイムズの東京支局長、マーティン・ファクラー氏(48)。元外務官僚・孫崎亨氏との共著『崖っぷち国家 日本の決断』が話題になっている。海外から見ると、安倍政権の暴走ぶりがより際立つと、ファクラー氏は言う。
「安部首相は、非常にピリピリして、どこか焦っているようですね。昨年、自民王国の山口県で選挙取材しましたが、投票する政党がないから、しかたなく自民党に入れているという人が目立ちました。安定しているように見える安倍政権の基盤や支持率も実は薄い氷の上で滑っているような状態。それを安倍さんもよく知っているのでしょう」
そんな安倍政権について、ファクラー氏が懸念するのが、差別的表現だと、社会問題にもなっているヘイトスピーチへの対応だという。
「民族や思想など違う立場を許さない、という恐ろしい雰囲気に対して、安部首相は何もメッセージを発していませんよね。これは国際的には黙認していると見られています。これは非常に危険なことで、社会の不安要素になりえます」
「女性活用」は政権の“売り”だが、安部首相は、海外から女性の人権を軽く見ている要注意人物と思われているという。慰安婦問題について先月もアメリカの新聞のインタビューで「人身売買の犠牲」と語ったのも海外で波紋を呼んでいる。
「朝日新聞の誤報問題があったことで、日本国内には、慰安婦問題は終わったという風潮がありますが、海外のメディアが安部首相を見る姿勢は何も変わっていません。とくに欧米では、慰安婦は歴史問題ではなく、女性の人権問題としてとらえられています。そのため、海外メディアが慰安婦を取り上げるのは、日本の政治家が慰安婦の存在自体を否定したり、『みんなやっていた』などと発言したりしたとき。そうすると日本が海外に、とても時代遅れの国だというイメージを与えてしまうのです。安倍政権は女性が活躍する社会を目指していますが、その首相が、海外では女性蔑視だとさえ思われている。そんな皮肉なことが起きているのです」
ファクラー氏は“安部首相の暴走”は日本人たちに自分を見つめなおすチャンスを与えていると語る。
「憲法、日米安全保障条約、沖縄の基地問題……。日本は戦後、なんとなくできた制度を維持しながら、経済を成長させて、非常に豊かな国になりました。これまで目を背けていた矛盾が今、次々と明らかになっています。安部首相は、戦後、日本国民が目をそらしてきた矛盾を掘り起こしているともいえます。野党不在で政権と違う意見や思想を許さない今、安部首相の暴走を止めるには、日本人1人ひとりが、自分たちの未来をどうするかを真剣に考えることが必要だと思います」