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「この自民党改憲草案は本当に問題だらけです。’12年の野党時代に作成した復古的な要素が多く取り込まれたもので、彼らが本気でこのとおりに変えられると考えているのかさえ疑問です。しかしここにこそ、自民党の思想の“本音”が、見事に表れているんです」

 

憲法学者で九州大学法学部教授の南野森さんは、参議院選挙の投票を目前にしたいま、こう言って眉をひそめる。

 

「まず『人権』という、人が人であるがゆえに当然持っているものを否定している。そして『権力を制限する』という憲法の最も大きな役割を削り、逆に国民に義務を強いるという内容なんです。『こんな草案を持つ政党を勝たせてはいけない』と有権者が気づくべき最後のチャンスが、この参院選だと私は考えます」

 

 

7月10日の参院選の結果、与党が議席の「3分の2」を占めると、ついに「改憲の発議」が衆参両院で可能になる。自民党改憲案のなかで南野さんが最も問題視するのは、「第二十一条」だという。

 

「集会、言論などすべての『表現の自由』を保障するというもの。改憲案でも一見、継承しているように見えますね」

 

確かに、条文は改憲案では「これを保障する」の「これを」が削られているだけで、大きな変化はない。

 

「ところが……、改憲案には『2項』が新たに書き加えられています。ここが『国民が縛られる』部分に該当するんです。『表現の自由は、保障する』としておきながら、続く2項では『公益及び公の秩序を害する』表現の自由は『認められない』と書いている。これはすべての国民にかかってくる重要な問題なんです」

 

たとえば、と南野さんが具体例で説明してくれた。

 

「週刊誌が政府の政策について疑問を呈する記事を掲載すると、政府は『「けしからん」となりますね。しかし現行憲法下では、それで罰せられることはありません。ところが、改憲案には『公益』や『公の秩序』を害してはならないとしている。『公の秩序』といえば、これは『性表現』に関するものなど、ある程度、厳格化できます。しかし『公益』といった場合、これは非常に広い範囲で適用されてしまう恐れが否めないんです』

 

さらに、次のような例も想定できるそう。

 

「ある国と日本が重要な外交交渉をしているとき、そのタイミングで政府の方針を批判した記事を書くと、罰せられる可能性が出てくる。政府の理屈でいえば『国の利益のために行っていること』、つまり『公益』に反する記事だとなるからなんです」

 

また「原発や武器などの輸出拡大」に関しても、これを批判する記事を書くと「公益に反する」と捉えられる恐れが出てくるのだという。

 

「この『女性自身』の連載さえ、『尊重すべき憲法の問題点を指摘した(=「公の秩序」に反した)』と政府に言われれば、萎縮し、自粛するという流れすらできてしまう」

 

そして、国民一人ひとりも、「うかつに発言できなくなる」恐れも。

 

「2月に『保育園落ちた日本死ね!!!』というネット上の1文が国会でも取り上げられましたが、同じようなことをある母親がSNS上にアップするだけで、罰せられる国になりかねないんです」

 

さらには、昨年夏の集団的自衛権の行使をめぐる国会の開会中に、国会前で連日さまざまな世代の国民が「戦争法案、絶対反対!」と唱えた行動も「政府に『暴動の危険あり』とみなされ、『公益や公の秩序に反する』と言われれば、罰せられる対象になってしまう。もうフツーの民主主義国家ではなくなってしまいます」

 

憲法学者である南野さんは、最後に読者に伝えたいことがあるという。

 

「『表現の自由』は、民主主義の最後の砦です。安倍政権は『経済繁栄』を持ち出して選挙を乗り切り、そのあとで“念願”の『改憲』に乗り出すでしょう。その結果、世の中がこうなる可能性があるということを覚悟したうえで、選挙に臨んでほしいと思います」

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