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「アメリカはすでに、金正恩を斬首作戦で殺害したあとの統治体制をシミュレーションしています。その結果は……武力行使が行われれば、韓国が火の海になるだけでなく、日本にも大きな被害が及ぶことになります」

 

そう警鐘を鳴らすのは、東京外語大学大学院教授の伊勢崎賢治さんだ。伊勢崎さんは、国連PKOの上級幹部として、東ティモールやアフガニスタンなどで、紛争処理や武装解除を指導した経験がある。

 

トランプ大統領が、「北朝鮮を完全に壊滅させる」と国連総会で演説すれば、金正恩氏も、「史上最高の超強行な対応措置を断行する」といった声明を発表するなど、一触即発の事態を招きかねないような言葉の応酬が続いている。

 

こうした米朝の緊迫した事態のなか、伊勢崎さんは今年9月、韓国のソウルで開かれた米・陸軍主催の「環太平洋陸軍最高司令官会議」に招かれた。その会議は、ロシアや中国を含む32カ国の陸軍最高司令官が参加する国際会議だった。

 

伊勢崎さんは米・陸軍から、この会議で、『斬首作戦後の北朝鮮の統治をどうすべきか』というテーマで意見を述べてほしいとの依頼を受けた。自らの経験を踏まえて、「軍事攻撃はリスクが大きすぎる」と、思いとどまるよう訴えたという。

 

「彼らだって、本当は斬首作戦なんかやりたくないんです。なぜなら、大変なのは政権を倒したあとだから。国民みんなが飢えているので、何もできないという人もいます。しかし、それは希望的観測にすぎないし、金正恩を失った屈強な北朝鮮の軍人たちが、あちこちで武装蜂起して、ISのようなテロ集団になる可能性だってありえる」(伊勢崎さん・以下同)

 

各地の紛争解決の過程で、体制崩壊の混乱を数多く見てきた伊勢崎さんは、続けてこう語る。

 

「路頭に迷って今以上に飢えた2,500万人もの国民をどうするのか。彼らを制圧して統治するのに莫大な労力とコストがかかります。金正恩体制よりも、危機的な状況になる可能性もあります。これまでアメリカが統治に成功したのは第二次世界大戦後の日本くらいで、アフガニスタンやイラクでは、ことごとく失敗し、泥沼化しています。だから米・陸軍も、本音では、武力行使を避けたいんです」

 

モスクワで10月20~21日に開かれた、核不拡散問題を話し合う会議の前日に、北朝鮮の北米局長とアメリカの元国務次官が「(話し合いのために)接触していた」という報道もあった。

 

「対話への模索はしていると思いますが、予測のつかない行動をするのがトランプさんです。米国内や、日本から軍事的“圧力”を支持する声が高まれば、斬首作戦というカードを切らないとは言い切れません」

 

万が一、斬首作戦が実行されたら、日本にどんな影響が及ぶのか。伊勢崎さんは、次のようなシナリオを予測する。

 

「在韓邦人や、北朝鮮の拉致被害者が犠牲になってしまうし、北朝鮮からの難民が、船で日本に大量に流入する可能性もあります。武器などを持った武装難民もまぎれているでしょうから、日本政府はすべての難民をチェックしないといけません。大変な作業で、考えただけで気が遠くなります。また、在日米軍基地が攻撃される可能性もあります」

 

つまり、日本も“戦場”になりうるというのだ。複雑な要素が絡み合う北朝鮮情勢。トランプ米国大統領が11月5日に来日するが、日本のトップには“強がり”よりも冷静な対応をすることを願いたい。

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