第16代米大統領リンカーンの妻、メアリー・トッド・リンカーンは浪費家で、感情の起伏が激しく、しばしばヒステリーを起こす『悪妻』の代表といわれている。
事実、メアリーが夫に当たり散らすことは日常茶飯であった。ホウキや棒で殴る、ナイフで追い回すなどの肉体的な『暴力』だけでなく、不平・非難を浴びせ精神的にも苦しめた。腹立ちまぎれに、飲みかけの熱いコーヒーを夫の顔にぶっかけたこともあった。
そんな『悪妻』メアリーだが、じつは本当は度量の大きい女性だったようだ。風采が上がらない夫のために、あえて自分が悪者になったというのだ。リンカーンを名大統領に押し上げた方法とは、いったいどんなものだったのか。
【妻の夢は夫がかなえる】
リンカーンとの結婚には、「今、金持ちで権威がある男よりも、将来、名声と権力を手にする地位に上る見込みのある男と結婚したい」というメアリーのしたたかな計算があった。そして、「私は大統領の妻になるべく運命づけられている」と確信していたメアリーは、夢を現実にする。「女性は政治に口出しせず、家庭を守るもの」と思われていた時代に、「歴史に名を残したい」という夫の政治的野心に自分の夢を重ねたのである。
【目標を明確にさせる】
当初、リンカーンの立場は奴隷制拡大反対で、奴隷制廃止論者ではなかった。南部ケンタッキーのメアリーの実家・大邸宅には奴隷が何人もいて、彼女は一度も炊事・洗濯など家事をしたことがなかった。だが、夫と同様に奴隷制に反対し、国の分裂に強く反対した。メアリーは夫の目標を明確にさせる。拡大反対ではなく廃止へと。
【社交場では夫より目立つのをいとわない】
ひょろっとして背ばかりが高く、洗練されていない所作の夫に代わって、メアリーが前面に出た。妻のパワフルな社交術に辟易することもあったが、どの人物が夫の役に立つかを『見分ける力』を妻は持っていた。また、そのことを誰よりも理解していたのはリンカーンだった。
【健康管理のために夫を無理やり運動させる】
執務室に閉じこもりがちな夫のために、メアリーは『馬車散歩』を日課に取り入れた。夫婦2人で、また、ときには子どもを連れて。『新鮮な空気』を吸うために、午後の1時間ほどを散歩タイムにした。
【思い切りイメージチェンジさせる】
今日では、リンカーンのトレードマークのようになっている顎ひげはニューヨークに住む少女からの「おひげを生やしたほうが立派に見えて、当選できますよ」という手紙がきっかけだった。リンカーンは素直に少女の提案を受け入れた。貧相な顔は威厳ある『大統領の顔』に変身を遂げた。外見が変わることで、夫が自信を持てばいいと考えメアリーもそれを喜んだ。
【着飾るのは夫のため】
「人は着ているもので判断するものです」メアリーは、豪華に着飾ることは夫のためになると考えた。ファッションリーダーとして人々の羨望と尊敬を集めることで、北部の人たちから南部出身として排斥される懸念を払拭しようとした。
【悪いと思ったら素直にあやまる】
メアリーは直情型で興奮しやすく激することも多かったが、また冷めるのも早かった。そして、「ごめんなさい」と素直にあやまることができた。